to do がよくて *to can がダメな理由
小飼弾さんが書かれた「English - can の未来形」に,はてなブックマークで次のようなコメントを記しました:
※デタラメ:to can がダメなのは(法)助動詞だからではなく英語の法助動詞には原形がないからです|二/三人称主語+shall は「神」の意志ではなくて話し手の意志です (cf. G. Leech, Meaning and the English Verb, 3rd edition, p.89)
これについて,id:Yuichirouさんから下記のご指摘を頂きました:
id:optical_frogさん「助動詞だからではなく英語の法助動詞には原形がないから」>英文法的にどこまで議論を進めているかが違うだけで、結局同じなのでは?
小飼弾さんが大づかみに書いておられるのに対してぼくは細かく書いているものの,2つの趣旨は同じ,というわけですね.しかしながら,実際には2つの説明はその趣旨も異なります.コメント欄では説明が足りなかったので,そのことを以下にあらためて記してみます.
小飼弾さんは,ToDo は正しく ToCan は正しくないことを説明して,次のように書いておられます:
"can"は動詞(verb)ではなくて補助動詞((auxiliary|modal) verb)である
ので、"to can"とは出来ないのです。
ちなみに"do"は動詞かつ補助動詞。ずるいですね。
さて,上記の引用にある「補助動詞」は,カッコ内の英語表記からみて,auxiliary verb と modal verb のいずれをも含むものと解釈されます(小飼弾さんは,バー記号 "|" を OR の意味で使っておられるはずです).
文法的な範疇としての法助動詞 (modal auxiliary) は助動詞 (auxiliary) に含まれますから,ここではようするに助動詞を指していることになります.*1
これを踏まえて,上記の引用文の推論を確かめてみましょう.
最初の文は,次のような推論になっています:
- (A) can は助動詞である;
- (B) 助動詞は to のあとに生起できない;
- (C) よって,can は to のあとに生起できない:ToCan は正しくない.
他方で,二番目の文は次のような推論になっています:
- (D) do は動詞でも助動詞でもある;
- (E) 動詞は to のあとに生起できるが,助動詞は to のあとに生起できない;
- (F) よって,動詞としての do は to のあとに生起できる:ToDo は正しい.
ここで前提となっている (B) と (E) は正しくありません.助動詞でも to のあとに生起できます:
- Defeat at the castle seems to have utterly disheartened King Arthur. (Monty Python and the Holy Grail)
- We don't seem to be doing anything illegal. ("Non-Illegal Robber," Monty Python's Flying Circus)
上記の例では,完了の助動詞 have や進行の助動詞 be が seem to のあとに不定詞で生起しています.
このように,助動詞ならば to のあとに生起できないという前提は間違っています.
to不定詞として生起するには原形がなければいけません.助動詞の be, do, have には原形がありますが,法助動詞の can, may, must, shall, will などには原形がありません(いまあげた形式はいずれも直説法現在の形式です).*to can がおかしいのは can を含む法助動詞に原形がないためで,これは *to does や *to did がおかしいのと同じことです.
*1:助動詞を下位区分するとき,一次助動詞 (be, do, have) と二次助動詞=法助動詞に分けたりします.