「留保の感覚」
丸山眞男『自己内対話』(p.149) から:
留保の感覚.
桑原武夫さんからきいた話.
中国登山隊がエヴェレスト登頂に成功した,ということを中国では大々的に宣伝したが,これが本当かどうか疑わしい(登山専門家から見れば色々疑点がでてくる).ところでアルパイン・ジャーナル(?)という世界一流の登山雑誌がイギリスででているが,その雑誌はたったの二,三行,この問題にふれている."They say that..." "The so-called..." という留保で……見事だ.全く黙殺するのでもなく,彼らはそう主張しているが疑わしい,というのでもなく,ただ,They say という形で,その報道をする.この抑制力と距離感こそ,イギリス人の政治感覚と,またその──いわゆる──保守感覚とも無縁ではないだろう.