アセモグル「国を豊かにするのはなにか?」(1/2)


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エスクァイア』誌にダロン・アセモグルが寄稿した文章を訳してみます.3回に分けてゆっくりやります 2回でおわってしまいました.正直,内容はいまいちな感じですが,関心がおありならどうぞ.

国を豊かにするのはなにか? 壮大な問いに経済学者が答える

"What Makes a Nation Rich? One Economist's Big Answer," Equire, Nov 18, 2009


あなたが世界の指導者で,自国の経済を繁栄させたいとお望みなら,MIT の学者でクラークメダル受賞者でもあるアセモグル氏が,かんたんな解決策をおしえてくれる:「手始めに自由選挙を」



by ダロン・アセモグル



ぼくらは豊かな先進国の人間,持てる者だ.あとの大半の人たち――アフリカ・南アジア・南米・ソマリア・ボリヴィア・バングラデシュの人たちは持たざる者だ.世界はいままでずっとこの有様で,豊かな者と貧しい者,健やかな者と病める者,飽食と飢餓に二分されている.今日の諸国間の格差の度合いは,かつてないまでになっている:合衆国の平均的な市民の豊かさは,平均的グアテマラ人の10倍,平均的北朝鮮人の20倍,平均的なマリ・エチオピアコンゴシエラレオネ人の 40倍にあたる.


社会科学者たちが何世紀にもわたって研究しつつこれといって成果もあがっていない問い,それは「なぜ?」だ.でも,彼らが問うべきだったのはこちらだ:「いかにして?」 格差はあらかじめ決定されているわけではないからだ.国は子供とはちがう――国はうまれながらに豊かな子と貧しい子に決まっているわけじゃない.国々の政府が貧富をわけているんだ.


格差に関する理論をたどると,フランスの哲学者モンテスキューにたどりつく.18世紀なかば,彼はとてもかんたんな説明を思いついた:「熱帯の連中はもともとなまけものだからさ」 ほどなく,これほど大雑把じゃない説明がいくつか出されていった:「マックス・ウェーバーのいうプロテスタントの勤労倫理が経済的成功の真の推進器なんじゃない?」とか,「もっとも豊かな国々はどれもかつてイギリス植民地だったんじゃないか?」とか,「いや,単純に,ヨーロッパ人の子孫がしめる人口がいちばん多い国がどこか調べてみればいいんじゃないの?」という具合だ.こうした理論はどれも同じ難点がある.それは,表面的には特定の事例にうまく合っているように見えるけれど,他の事例にあたると根底から反証されてしまう,という難点だ.


近年になって提出されている理論でも,事情はかわらない.地球研究所所長をつとめる経済学者のジェフリー・サックスは,いろんな国々の相対的な成功を地理と気候に由来していると主張している:つまり,彼に言わせると,世界でいちばん貧しい地域は熱帯で土壌が貧しく,農業をやるのがむずかしいし,熱帯の気候は病気(とくにマラリア)をひろめやすい.そうすると,そうした国々の市民たちによりよい農業技術を教え,マラリアを根絶するか,せめて抗マラリア剤のアーテミシニンを与えてこうした問題を解決すれば,貧困は一掃できることになる.いや,いっそ,彼らを移住させて,住むのに適さない土地をまるごと放棄してもらえばいいかもしれない.


著名なエコロジストにして売れっ子作家のジャレド・ダイアモンドはこれとちがう理論を出している:世界の格差の起源をたどると,植物や動物の分布と技術進歩の歴史のちがいにいきつく,と彼はいう.ダイアモンドによると,植物の栽培を最初に学習した文化は鋤を使うことを最初に学習した文化であり,したがって最初に他の技術も学習した文化となった.そして,技術はあらゆる経済的成功の推進器だ.だとすると,おそらく,世界の格差を解決するカギは技術にあるわけだ――なら,途上国をインターネットと携帯電話に接続すればいい.


たしかにサックスやダイアモンドは貧困の一部の側面についてはすぐれた洞察をしめしている.でも,彼らもモンテスキューその他の人たちと同じ難点を抱えている:彼らはインセンティブを無視しているんだ.人々が投資や発展をするにはインセンティブが必要となる.がんばって働けばお金が稼げるし稼いだお金は自分のものにしておけると人々が知っている必要がある.そして,こうしたインセンティブを保証するカギとなるのは,頑健な制度だ――法の支配・治安・統治システムが成功と革新の機会を提供することが必要となる.持てる者をもたざる者からわかつのはこれに他ならない.地理や気候や技術や疫病や民族性じゃなく,制度がカギなんだ.


ようするに:「インセンティブを改善すれば貧困は改善される.そして,制度を改善したいなら,政府を改善しないといけない.」


つづきます