メモ:行為の達成をあらわす can (could じゃなくて)


過去時制の could については,was/were able to とあわせて「〜できた」(現に〜した)という事実の含意がよく論じられます.たとえば次のような例では「現に〜した」という含意が伴います:

a. I could just reach the branch.
b. I could reach the branch because it was loaded down.
c. I could get in, because the door was open.
(柏野 2002: 43; Palmer 1979: 82; Palmer 1980: 95)


が,このような事実の含意は必ずしも過去時制の could にかぎられないようです.

 次の例をみてみましょう:

If, by the end of the allotted time, you and your group can reach consensus on the decisions to be made, you can return to your desk, revert to your executive role, and announce the decision (...) *1
(もし所定の時間内に意志決定の合意に達することができたら,デスクにもどって管理職としての役割に復帰し,その決定を公表することができる)


If節の can に注目します.この can はたんに可能だという状態をあらわすばかりでなく,主節 you can return ... の時点から見ると「現に合意に達した」という事実の含意をも伴っています.そうでないと,この発話は「合意が可能ならば,合意に達しないままで,デスクに戻ることができる」という意味になってしまいます.

 もちろん,その事実(行為の達成)は条件スペース内部に限定されてはいるのですが,可能性または能力のみが成立するわけではないという点はたしかであり,どうもこうした含意は過去時制の could ならではのものというわけではなさそうです.

 もうひとつ,こちらは be able to での同じような解釈の例:

Let's assume that by eleven-thirty Joan has been able to facilitate matters so that the group has generated three potentially workable solutions. *2
(11時半までにジョアンがうまく議事進行することができてグループが3つの有望な解決案を考え出したとしよう)


こちらでは,so that 節の has generated... が表す事態の時点では主節の動詞句 facilitate matters が表す行為は現になされており,be able to はたんに可能や能力だけを表しているとは解釈できません.

 ついでながら,最初の例の日本語訳にも着目してみますと,「〜できたら」とタ形(過去時制または完了)になっているのが興味を引きます.(「できるなら」では不自然です.)

cf.

a. 「明日,田中さんに会えら,会議の日時が変更になったと伝えておきます」

b. 「明日,田中さんに会えなら,会議の日時が変更になったと伝えておきます」

c. #「明日,田中さんに会えなら,会議の日時が変更になったと伝えておきます」

d. 「明日,田中さんに会えれば,会議の日時が変更になったと伝えておきます」


上記の例では,ル形の (c) は意味的に不適格になるように思われます.(微妙なところですが)



ついでながら

つまらんネタで更新してんじゃないよ,とお思いの方もおられるかと存じますが,当ブログはもともとこういうネタばっかりやろうという趣旨ではじめたのです.

*1:Michael Doyle and David Straus, How to Make Meetings Work, Jove Books, 1976, p. 68

*2:Ibid., p.69