スティーヴン・レヴィット,Nudge をほめる
スティーヴン・レヴィットが『ヤバい経済学』ブログの4月11日付けエントリで,Cass Sunstein & Richard Thaler の新刊 Nudge をとりあげて賞賛していました(「レヴィット? 誰それ?」という方には山形浩生さんのこの書評が役に立つかと).
以下,拙訳です:
Nudge
[April 11, 2008, 10:38 am]
ぼくはいわゆる「行動経済学」の猛烈なファンってわけじゃあない.行動経済学というのは経済学の下位分野で,標準的な経済学のいろんなモデルを拡張して人間の行動における体系的なバイアスをとりこもうとしている.
ぼくの懸念については前にちょっと書いたことがあるから,ここでは繰り返さない.行動経済学からでてくるいろんな洞察には重要なものもあるってことは否定しないけど,大半はたいしたことない──とくに,市場の試練にさらしたときには.
行動経済学よりもずっとヤなものを挙げるなら,けったいな言葉やラベルがそうだ.ひとが概念に──とりわけ新しくつくった概念に──仰々しいラベルを貼ってるのをみると,ゲンナリする.
だから,1年前くらいに Richard Thaler とお昼を一緒にとったとき,彼が Cass Sunstein と共著で一般向けに行動経済学の本を書く予定で,そのテーマが「リバタリアン・パターナリズム」だって聞いたときには,正直言ってうんざりした.
「リバタリアン・パターナリズム」だなんて,まさしくぼくが無視してとおる手合いのフレーズじゃないか.
そういう理由があったから,ついに新刊の Nudge を読むことになったとき,ぼくはこれ以上なく驚いたし,嬉しく思った.当初の悪い予感に反して,半分ほど読んでみたところこれはぼくの大好きな本だった.
本書の要点は次のとおり:
人々はじぶんの選択についてあまり熱心に考えたりはしないから,君のさせたいことをやらせるなら,教育したりインセンティヴを与えて行動を変えるよりも彼らをひっかけてやる方がずっとかんたんだ.人をひっかける方法はたくさんあるけれど,一番かんたんなのは選択肢をひとに提示するやり方をちょっと考えてみることだ.これを著者たちは「選択のアーキテクチャ」と呼ぶ.
これは重要な洞察だ.というのも,経済学者としてぼくの直観はいつも一足飛びにインセンティヴへと向かうからだ.著者たちがとても説得的に示しているのは,やらせたいことをさせるにはそれよりかんたんな方法があることがしばしばだってことだ.
本書は興味深い事例を矢継ぎ早に浴びせかけてくる:
空港のトイレで男どもがうっかり便器じゃなくて床のようにひっかけちゃうのをやめさせたいと君が思ってるとしよう.(ダブナーは空港のトイレにご執心だ.彼なんかはきっとなんらかのインセンティブ・スキーマを考えられるんじゃないかな.) もしかすると新式の便器を考案するひとが現れるかもしれない.でも,選択肢アーキテクトはそれよりかんたんな解決策をもっている:便器にハエの絵を描くんだ.すると,狙いができたことでこぼれるのが80パーセント減る.
これよりも現実的に重いものだと,401kプラン〔退職金の積立制度〕に関するものがある.みずからの401kに関してひとびとに賢明な選択をさせるのはとても難しいのがわかっている:分散させたり税制上の優遇措置のない資産にするのに失敗してしまう.
経済学者の中には,教育や情報提供を試みた人もいるけれど,結果は芳しくなかった.選択肢アーキテクトはそれとちがうアプローチをとる:もしデフォルトの割り当てが与えられたなら,ほぼ全ての人がそのデフォルトを選ぶ.だから,選択肢アーキテクトが当該人物について知っている選択をふまえて賢くデフォルトの選択肢をつくればいいというのが答えとなる.
事例をほんの一部選んで抜粋しても,本書の本当のすごさは伝えられない:これ,ほんとに読んでて面白いんだよ.学者がここまでうまく書けることは滅多にない.
本書がカバーしている話題の広さをつかんでもらうために,索引の項目をほんのちょっとだけ引いてみた:
- ABBA, Gold: Greatest Hits, 194
- accountability in schools(学校における説明責任), 200
- air conditioners, filters for(空調機,〜用のフィルター), 234
- angels(天使), 235
- arousal, power of(性的興奮,〜の力), 42
- asbestos, warnings about(アスベスト,〜についての警告), 189
- Attila the Hun(フン族のアッティラ王), 23-24
- autopsies, corneas removed in(死体解剖,〜で摘出される角膜), 177
ここで挙げたのは「A」に入っていたものだけだ.
Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness
- 作者: Richard H. Thaler,Cass R. Sunstein
- 出版社/メーカー: Yale University Press
- 発売日: 2008/04/08
- メディア: ハードカバー
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キャス・サンスティーンに言及した昨日のエントリへのコメントでも macskaさんが Nudge に言及しておられます.
ま た 積 ん 読 を ふ や す の か