はじめてでも「再突入」
スペースシャトルなどが 宇宙から地球にもどってくるとき,英語で re-enter(再突入する)といいます.名詞は re-entry(再突入).
はじめてでも「再突入」です.
おかしな感じがしますが,アラン・クルーズせんせいによると,意味論的にはこう考えられるとのこと:
The astronaut re-entered the atmosphere(宇宙飛行士は大気圏に再突入した)は,宇宙飛行士の初飛行においても適切に使える.このことから,“re-enter”は(少なくとも)MOVE と IN とに分析しないといけないのだとわかる.なぜなら,いま言った状況では re- が合図する反復は IN にだけ当てはまるからだ.つまり,この宇宙飛行士は,以前のある時点において地球の大気圏の中にいたのでないといけない.私の直観では──これは議論の余地があるが──この文はあいまいなわけではない:宇宙飛行士がかつて大気圏に突入した経験があるかどうかは問題にならないのだ.
(Alan Cruse, Meaning in Language, 2nd edition, Oxford University Press, p.237;訳文引用者)
つまり,「再突入する」とは
(a) 地球外から大気圏の中 (IN) へと
(b) 移動する (MOVE)
という意味であり,繰り返しを意味する接頭辞の re- は (a) の「大気圏の中」が「ふたたび」であることをあらわしている:だから進入がはじめてでも「再突入」というのだ,というわけですね.
wikipedia の項目をみると,次のようにあります:
大気圏再突入(たいきけんさいとつにゅう)は宇宙船などが真空に近い宇宙空間から地球などの大気圏に進入すること。単に再突入 (reentry) とも呼ばれる。宇宙飛行においては最も危険が大きいフェイズの1つである。大気圏突入 (entry) と言う場合は隕石など外来の物体も含むのに対し、大気圏再突入は地上から打ち上げた物体の帰還に限る。
隕石のようにもともと外にあったものの場合にはたんに「突入」(entry) で,地上から打ち上げたものの帰還についてだけ「再突入」というわけで,なるほど re- は IN の要素に関係しているようです.
私の直観では──これは議論の余地があるが──この文はあいまいなわけではない:宇宙飛行士がかつて大気圏に突入した経験があるかどうかは問題にならない.ただ,次のちがいは表示できないといけない:
(a) The astronaut entered the atmosphere again(again には強勢をおかずに)〔=「宇宙飛行士は大気圏内にもどってきた」〕
(b) The astronaut entered the atmosphere again(again に強勢をおいて)〔=「宇宙飛行士はふたたび大気圏に突入した〕
すなわち,
(a) ([MOVE] [IN])again
(b) [MOVE]([IN]again)
(前掲書,pp.237-8;強調原文)
なお,参照したロケット関連の文献があさりよしとお先生の『まんがサイエンス』のみであることを,ここに申し添えておきます.
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