らくちんでピースフル?:クリプトンさんの対応について
【2008-01-31追記:コメント欄での asさんのご指摘を反映して加筆しました.】
デッドボールPの動画を削除するよう申請した「権利者」は,VOCALOIDの販売元であるクリプトンさんでした:
今回、公序良俗に反する歌詞を伴う作品がニコニコ動画に連続的に投稿されているとの通告を一般視聴者の方より受け取りました。弊社で調べましたところ、確かに公序良俗に反すると認められました。また初音ミクのイメージを損なう恐れがあると見受けられ、それらが同一人物と思われる作者による投稿ということもあり、誠に残念ではございますが、黙認のレベルを超えていると判断せざるを得ませんでした。何卒ご理解いただけますようお願いいたします。
残念です.
この文章によると,「黙認のレベルを超えていると判断」した理由は次の2つ:
(a) 当該の動画/楽曲が公序良俗に反する.公序良俗に反する歌詞を含む合成音声は公開・配布しちゃダメだと「VOCALOIDライブラリ使用許諾契約書」に書いてある.
(b) ボーカロイド(音声合成ソフト)やキャラクター(初音ミクや鏡音リン/レンたち)のイメージを損なう.
★追記:上記 (a) には,ライブラリの声を担当しておられる声優さんたちの人格権を守るためという目的もあるようです:
注意事項と致しましては、製品中の「使用許諾契約書」にも書かれてます通り、実在する人物の歌声を再現するソフトウエアという製品の性質上、『MEIKO』には幾つかの使用禁止事項が規定されております。例えば、『MEIKO』では公序良俗に反する歌詞を歌わせる用途に用いることを禁じております。
(クリプトン社>サポート>FAQ;強調引用者)
(▲この文章をこう解釈しています:(A)実在する声優さんたちの人格を守るために (B)複数の使用禁止事項が規定されていて (C)そのうちの1つが公序良俗に反する歌詞を歌わせることの禁止である.(D)公序良俗の事項は,声優さんたちの人格保護だけを目的とするものではない.)
3. 合成音声の使用の制限
お客様が公序良俗に反する歌詞を含む合成音声を公開や配布することはどのような方法であっても許されません。
お客様がライブラリの歌手本人だけでなく、第三者の人格権を侵害する合成音声を公開または配布することは許されません。お客様が合成音声を公開あるいは配布したことにより発生したいかなるクレーム、訴訟、直接的、派生的、付随的または間接的な損害に対してもヤマハ株式会社は一切責任を負いません。
(VOCALOID「ソフトウェア使用許諾契約書」;強調引用者)
そうすると,クリプトンさんがみずから (1)公序良俗に関する判断〔+声優さんの人格にとってマイナスとなるかどうか〕や (2)ソフトやキャラクターのイメージの判断をして,(3)動画の黙認/削除申請をするというおはなしになりますね.
これはらくちんでピースフルなやりかたなのでしょうか.じぶんには,そうは思えません.
(1') クリプトンさんは,「この楽曲/動画は公序良俗に反しているのではないか」との一般視聴者さんの通告に応答するという方針をハッキリされました.その方針をとっているかぎり,ボーカロイド/ミクたちを使用したあれこれの楽曲・動画について公序良俗の判断に首をつっこむめんどうを背負い込むことになるのではないでしょうか.削除申請をやってそれが通るとわかったからには,「クリプトンちゃんと対応しろ」という声にこたえなきゃいけなくなりませんか.*1
(2') ソフトウェアやキャラクターの公式イメージをひろめていくのは素晴らしいことですね.でも,ユーザーが公式イメージといちじるしくちがうキャラクター・イメージを創作するのは放置しておくべきじゃないでしょうか.VOCALOID を購入したユーザーがそれを使ってどんな創作をしようと──どんなイメージをキャラクターにつけようと──それはユーザーの勝手にすべきことだと思います.
(3') 公開・配布のレベルと,批評のレベルをわけてみましょう.創作された動画の削除の是非は,公開・配布のレベルの話で,これは基本的に自由であるべきです.それに対して,イメージの善し悪しも含めて「GJ!」とか「これはひどい」とか「下品にも程がある」というのは批評のレベルです(スルーするのも批評).動画の削除といった公開・配布への介入はナシにして,クリプトンさんが公式イメージをひろめていくなら批評のレベルでがんばっていただきたいです.ユーザーたちの創作活動の一方でクリプトンさんの公式イメージをひろめていくには,それを損なう動画の削除申請をするのではなく,公式イメージに貢献する作品を賞賛するべきではないでしょうか.賞をもうけるとか.
※なお,公序良俗に反するかどうかの基準は「TV放送できるか否か」だそうです:
"公序良俗"の判断基準については弊社では「TV放送できるか否か」をひとつの判断基準としています。例えば性的表現に関しては視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意しています。家族がそろって視聴した場合、露骨な表現描写をすることによって困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意をしています。(民放連の放送基準より一部参照)
「公序良俗に反する歌詞を含む楽曲について」
★追記:上記の引用ではミスリーディングですので以下を参照してください:
所謂18禁に相当する様な卑猥な作品や、過度にグロテスクな作品などが、公序良俗に反すると判断されますが、それに限らず一般通念に照らし合わせて判断いたします。
VOCALOIDを用いて楽曲を制作する場合、「VOCALOIDライブラリ使用許諾契約書」に記載されております通り、公序良俗に反する歌詞を含む合成音声を公開または配布することを禁じております(※)。
また楽曲を含む他のコンテンツにおいてもVOCALOIDそのものや、VOCALOID製品のタイトル/キャラクター(「初音ミク」「鏡音リン」「鏡音レン」等)、バーチャルシンガーなどとクレジットされた作品において、それそのものが、いわゆるエロティックな表現や、バイオレンス、グロテスクな表現を、自ら発言/自己表現しているような見え方と捕えることが可能な場合、または視聴者がVOCALOIDやキャラクターのイメージを誤解し、困惑、嫌悪の感じをいだくく可能性がある場合、VOCALOIDやキャラクターのイメージに悪影響があると判断させていただく事が御座います。
※
"公序良俗"の判断基準については弊社では「TV放送できるか否か」をひとつの判断基準としています。例えば性的表現に関しては視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意しています。家族がそろって視聴した場合、露骨な表現描写をすることによって困惑、嫌悪の感じを抱かせないように注意をしています。(民放連の放送基準より一部参照)
(クリプトン>サポート>FAQ)