「留保の感覚」


丸山眞男『自己内対話』(p.149) から:

 留保の感覚.
 桑原武夫さんからきいた話.
 中国登山隊がエヴェレスト登頂に成功した,ということを中国では大々的に宣伝したが,これが本当かどうか疑わしい(登山専門家から見れば色々疑点がでてくる).ところでアルパイン・ジャーナル(?)という世界一流の登山雑誌がイギリスででているが,その雑誌はたったの二,三行,この問題にふれている."They say that..." "The so-called..." という留保で……見事だ.全く黙殺するのでもなく,彼らはそう主張しているが疑わしい,というのでもなく,ただ,They say という形で,その報道をする.この抑制力と距離感こそ,イギリス人の政治感覚と,またその──いわゆる──保守感覚とも無縁ではないだろう.

Chapter 7: HUMAN SOCIETY:[7-46] 〜 [7-50]


SFAA翻訳をお手伝い:

[7-46]
社会の多数派がある社会的意志決定に合意したときにも,それに賛同しない少数派に保護が与えられることもある.たとえば合衆国の政治体制において,連邦政府および州政府の憲法は,支持者がどれほどの多数派を形成していようと選挙で選ばれた議員によって変更され得ない市民の権利を確立している.こうした憲法の変更には,通常,たんなる過半数ではなくてすべての有権者の3分の2または4分の3という圧倒的大多数が必要とされる.

[7-47]
政治的少数派がとる方略のひとつに,利害関心の一部を同じくする他の小集団たちと一時的にであれ力を結集する,というものがある.少数派集団の連合は,ときに多大な影響力をもちうる場合がある.さらには,共通の利害関心が相違点に優先するかぎりにおいて,少数派の連合が多数派となることすらありうる.

[7-48]
これと同様の政治的権利の保護は, 連邦議会と大半の州政府における二院制によっても与えられている.たとえば議会において下院は人口の比率に応じた代表をもっているため,我が国のすべての市民が同等に代表されている.他方で上院ではそれぞれの州から人口に関係なくちょうど2人ずつ議員が選ばれており,したがってどれほど小さい州の市民でも他のどんな大きな州の市民とも同等の代表をもっている.

[7-49]
これに加えて,さまざまな社会で,軋轢を周知する非公式の方法がたくさん発達している.たとえば討論,ストライキ,デモ,世論調査,広告がそれであり,さらには演劇,歌,マンガもそうだ.不満のある小集団には,マスメディアによって,非常にみえやすいかたちで公式声明をだす自由な手段が与えられている.こういった手段・方法は,対立をやわらげ妥協をひきだすこともあれば,逆に火をつけて相違を二極化してしまうこともある.軋轢の解決や緩和に失敗すると,社会システムに多大な圧迫が加えられる.変化する能力がなかったりその意思がないために,いっそう高い水準の軋轢がもたらされるかもしれない:訴訟,サボタージュ,暴力,全面的な革命,さらには戦争といった段階へとすすんでしまうかもしれないのだ.

[7-50]
集団どうしの軋轢や訴訟などがもちあがったとき,社会の一部がみずからの好む意志決定の実現にこぎつけたからといって,必ずしもそうした軋轢がおさまるとはかぎらない.その場合,抵抗集団はその変化を逆転させたり修正したり阻害するような措置にでるかもしれず,そのときには軋轢は続行することとなる.しかしながら,軋轢は集団の行動を堅固にすることもある.国であれ家族であれ,危機に際してはいっそう結束を固くする傾向がある.これにより,自集団内部での緊張は緩和され,互いの助け合いが強くなる.


対応する原文はこちらです.


 これで,第7章の残るセクションは1つとなりました


こちらも自分が担当するつもりです


追記残りも訳しました

Chapter 7: HUMAN SOCIETY:[7-51] 〜 [7-56]


続けて,SFAA第7章のGLOBAL INTERDEPENDENCE([7-51]〜[7-56])を訳しました:

[7-51]

グローバルな相互依存 GLOBAL INTERDEPENDENCE

国際経済システムと共通の環境問題(核兵器のグローバルな影響や森林破壊,酸性雨など)をとおして,諸国と諸文化はますます互いの依存関係を深めるようになっている.また,海外旅行やマスメディアをとおしてお互いについてもっと知るようにもなってきた.グローバル・システムはその結びつきを強めており,ある地域での変化が他の地域に多大な影響をもたらすようになっている.たとえば,地域紛争はその国境を越えて他国にまでおよび,石油価格の変動は世界中で経済の生産性・貿易収支・利率・雇用に影響する.ほぼ全ての国の富・安全・一般の福祉は互いに関係し合っている.孤立主義政策はもはや維持しがたく,核兵器の拡散を管理したり世界金融システムを激しい変動から守るといったグローバルな問題の対応にはすべての国の協調行動が不可欠であることに関して,大半の国々の指導者たちは合意を形作りつつある.

[7-52]
国どうしは 多種多様な公式・非公式の制度をとおして関わり合っている.公式の制度には,外交関係,軍事・経済の連合,国際連合世界銀行といったグローバルな組織などがある.しかしながら,国の政府と異なり,グローバルな組織はそのメンバーに対して限られた権威しかもっていないことがよくある.非公式な制度には,文化的交流,旅行者の出入国,留学生の交流,国際貿易,世界中に会員を有する非政府組織(アムネスティ・インタナショナルや反飢餓キャンペーン,赤十字,スポーツ団体など)の活動などがある.

[7-53]
ある国の豊かさは,その労働者の営為と技能,天然資源,そうした技能や資源を生み出すのに利用可能な資本とテクノロジーに左右される.しかし,国の豊かさを左右するのは,その国がみずからどれだけ産出できるかだけではない.その生産物を他国がどれほど求め,他国の生産物を自国がどれほど求めるかの収支によっても左右される.国際貿易は,石油や食用作物といった資源や生産物が不足していることによってのみ生じるわけではない.たとえ自国で必要なものをすべて生産できるとしても,他国との貿易から利益がえられるのである.ある国が(品質やコスト,またはその両方の点で)もっとも効率よく生産できるものを生産し,その生産物を他国に売るなら,理論的にはそのシステムによりすべての参加国の状態を改善するのが可能となる.

[7-54]
しかしながら,現実にはさまざまな要因が影響して,国際貿易の経済的現実をゆがめている.たとえば,貿易を阻害することのある要因としては,経済的・政治的に力の勝る諸国による搾取に対する恐怖,外国との経済的競争で負けてしまう一部労働者の集団を保護せよとの要求,将来の紛争において利用不可能になりうる一部の生産物を外国に頼りたくないとの意志などがあげられる.

[7-55]
国際的なつながりは強まっているため,国際政策と国内政策の区別は多くの場合にはっきりしない.たとえば,我々の購入する自動車や衣服の種類と値段を決定する政策は,国外貿易と国際収支にもとづいている.自国の農業生産物は国内政策だけでなく海外市場にも左右される.国際市場はすべての国にとって有益なものではあるかもしれないが,たとえそうだとしても,それぞれの国の一部の集団にとっては不利益なものとなるかもしれない.たとえばアジア諸国で安く自動車を生産すれば全世界の自動車購入者にとって利益となるが,同時に他の国の自動車メーカーは仕事を失ってしまう.みずからの宗教的・政治的イデオロギーに関して強い合意をかためている国は,そうしたイデオロギーを他国に積極的に広め競合する思想をもつ集団を弱体化する外交政策を追求するかもしれない.

[7-56]
世界の社会的・経済的・環境的システムの相互依存が強まることで,社会的決定の合意について予測が立てにくくなっている.世界のどの地域の変化も,増幅されてそれ以外の地域に影響を及ぼし,ある人々に利する一方で他の人々には負担をかけることがありうる.また,ある変化により不安定性と不確実性がうまれ,すべての人々に不利益がもたらされる可能性もある.世界の安定は,諸国がビジネスや情報交換の制度をより信頼できるものにし,グローバルな破滅を警告する監視機構を発展させ,もっとも富める国ともっとも貧しい国の生活水準の大きな格差を縮小するかどうかにかかっているのかもしれない.社会システムに参画する人々の場合と同じく,諸国もまた,短期の損失を被りつつ世界経済の安定という長期の利益を達成することの方がみずからにとって有益とみることもときにあるものだ.