自分の読解力がわからなくなる:「脱童貞」でおk?
「Linux開発者が脱童貞に成功して話題に」という Gigazine の記事:
Linuxの古参開発者の一人であるTodd Stanton氏がふとしたきっかけで脱童貞に成功
Todd Stanton氏によると、コーディングを行っている最中に電源が壊れ、予備のものと交換する代わりに新しくリリースされたDVDをチェックするため、Best Buy(米国の小売大手)まで行くことに決めたとのこと。しかし特に目新しいものが無く、仕方ないので「マトリックス」のDVDを買うことに。そしてレジに持って行くと、なんとレジの担当をしていた少女がマトリックスのファンで、そのまま脱童貞の関係へと結びついたそうです。
なかなか楽しい記事ですね.
でも,「脱童貞」のソースが見あたりません.
詳細がのっているという記事 "Linux Developer Gets Laid" を読んでみたのですが,とくに「脱童貞」に相当する記述は見あたりません.そうすると,"get laid" にそういう意味があるのかなと思ったのですが,やっぱりこれは「性交渉する」という意味であって,とくにそうした含意があるわけでもないみたいです.
相手の女性との関係を述べている箇所は次の2つです:
Philadelphia, PA - In news that is sure to excite the Linux community, long time Linux developer Todd Stanton got laid.
強調箇所は「Todd Stanton が女とヤった」という意味.*1
Turns out the checkout girl was a Matrix fan too and well one thing led to another."
こちらの強調箇所は,意訳すると「出会いからとんとん拍子に進んだ」くらい(直訳なら「ひとつのことが次のことにつながった」)です.
どうもよくわかりません.特定のコミュニティでは get laid が特に「脱童貞」という意味になるとか,あるいは他のソースにはそう書いてあるとか,そういうことでしょうか.(些細なことですが.)
それはさておき,このニュース,どちらかというとリアクションの方が面白いんですよね:
「自分でもいまだに信じられない」と語るトッド.「コーディングをしてたら電源がいかれた.いつもなら代わりのをひっぱりだすんだけど,ベストバイに行って新譜DVDでも漁ろうと思ったんだ.でも新しいのはなくって,そこで『マトリックス』をもう一枚買った.もってるヤツがずいぶん痛んでたからね.そしたらレジの女の子もマトリックスのファンで,そこからはとんとん拍子だよ.」
噂はすごい勢いでメッセージボードやIRCに広まった.「実にけしからん.リナックスとオープンソース運動への熱意に欠けるようだ」と語るのはフレッド・シンプソン.「もし他の連中までこのやり方を真似しだしたら停滞するプロジェクトが大量発生しちゃうだろ」
このノリは好きw
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■2008-04-06追記/
当該記事のはてなブックマークでの id:kazyamaさんのコメント:
原文と内容が一部違うような。GIGAZINEでは「多くの開発者たちが(中略)自分たちにもチャンスが増えることを期待して興奮している」とあるが、原文には"Some developers are also excited (中略), but most are being realistic. "とある。
同意です.
上記のBBspotからの引用文は「開発者の一部にはこれでうまくいく確率があがるかもと興奮するものもいるが,大半は現実的だ」という趣旨で,リナックスの開発者たちがこぞって「うおおおおッ」と盛り上がっていると書いてあるわけではないですね.これに続く箇所でも,Gigazine が「何も得られない者などいないのだ」といわゆる二重否定で訳している箇所はおそらく誤訳と思われます.原文をみてみましょう:
Some developers are also excited that this may increase their chances of getting lucky, but most are being realistic. Walker Crandall said, "We thought we'd all be doing the hokey-pokey after Bill Fitzsimmons got some during the LinuxWorld Conference in 1999. We were fooling ourselves. Nobody got nothing."
開発者の一部には,これでうまくいく確率があがるかもと興奮するものもいるが,大半は現実的だ.Walker Crandall は曰く,「1999年のリナックス・ワールド・カンファレンスのとき Bill Fitzsimmons がいくらか手に入れた,これでぼくら全員がうまいことやれるようになると思ったこともあった.ぼくらは自分にウソをついてたんだ.うまくいったヤツなんていなかった.」
ここで紹介されているのは「現実的」な意見で,以前にも「うまくいく」と思った例はあったけれどそんなふうにはならなかった,という趣旨です.したがって,"Nobody got nothing" は「誰もなんにも手に入れなかった」と解釈する方が適切でしょう(詳細はこちらを参照).Gigazineの解釈では直前の文と文意が衝突してしまいます.また,時制が過去なのですから,「何も得られない者などいないのだ」という現在の一般論とは解しにくいはずです.(なお,「いくらか手に入れた」と直訳した "got some" はあいまいな表現ですが,おそらくは「ちょっとモテた」という意味でしょう.)
記事の結び:
This is the third such occurrence for Linux developers since 1991.
1991年以来,リナックス開発者にとってこれは3回目のケース.
なんと言いますか,「歴史を思い出すんだ.期待しては裏切られてきたじゃないか(…くッ)」というメッセージを感じます.
★まとめ:
- この件は「脱童貞」ではなくて「非モテがふとしたきっかけで女の子と仲良くなれた」というニュースとみた方がよさそう.
- リナックス開発者たちが揃いも揃って「オレも脱童貞できる!/モテる!」と盛り上がったわけではなさそう.
- むしろ,一部の盛り上がりに対して大多数は「おまいら冷静になれw」と醒めていると書いてある.
- ただ,リナックス開発者コミュニティの傾向は「非モテ」らしい.
いずれにしてもネタ記事ですし,Gigazineの記事をとくに責めたい気持ちにはなりません.ただ,他の重要なニュースではこういうミスリードはしないでほしいと思います.
/追記おわり
*1:研究社新英和大辞典第6版によると「俗語」とあります