アセモグルせんせいにきく:近代の経済成長 (2/3)
昨日の続きです.
Romesh: 現代の経済成長をみると,第二次世界大戦いらい長きにわたって途上国を成長させようと努力を重ねながら,大方は不首尾に終わっていますよね.つまり,せいぜい日本と,少しあとになって韓国や香港あたりがつづいたくらいで,ほんのわずかなものです.近年になって,中国やインドといった一部の大国で大幅な成長がみられました.これを心強く思っていいものでしょうか? 世界のいまなお貧しい地域があれほどの速度の成長を達成して私たちのような発展水準に到達できるという見通しをもてるでしょうか?
ダロン:「イエス」でも「ノー」でもあるね.次の意味で,1950年代と60年代の記録はそれほど悪いものじゃなかったとぼくは思う.つまり,ブラジルみたいに急速に成長した大きな国がいくつかあったし,それにいま言ってくれた韓国もあるし,日本はすごく急速に成長してたよね.そこで問題なのは,こうした成長のプロセスがどうしてはじまりどうして終わったのか,その動力がなんだったのか,いまだによくわからずにいるってことですよ.ある意味では,戦後に犯されたおおきな失態は,こうした成長のエピソードはその多くが継続しなかったということ.つまり,韓国は成長を持続したけど,ブラジルやアルゼンチンは持続しなかった.こうした国の成長はいきづまった.トルコもそうだね.
で,ある意味で,突き詰めていくといったいどういう要因があってこうした成長の限界ができたのか,そこを理解しなくては,未来のなりゆきについてよりよい予測もよりよい政策提言もできませんね.だから,そういう点でみて,インドの経験はぼくらには理解しやすい.なぜなら,インドは徐々に経済を開放するというプロセスを経てきましたからね.かつてのインドでは,市場システムは資源配分の主要な経路ではありませんでした.民主主義のもとの市場経済ではありましたけどね.でも,1980年代後半や1990年代前半になって,市場システムはかなり重みをましていきました.そして今日では,インドはじつに活発な経済となっていて,その民主主義はかなり強力なものになっている.
すると,ぼくらが知っていることをふまえるなら,インドのこれからの軌跡は韓国のそれとそれほどかわらないだろうと想像されますね.つまり,インドはこれからも成長をつづけるだろう,ということ.しかし問題もおこるでしょう.あまり効率的に組織されていない巨大企業がいまもあって,再配分の痛みを味わうことになるでしょう.
しかし,中国について言えば,どんなプロセスがおきたのか,いまだに正確なところはわかっていませんね.まあ,基本的な概要ならいくらかわかってはいるんです.完全な計画経済がしだいに弱められ,商業特区だとか郷鎮企業といった市場のシグナルが導入されていき,さらには国有企業も民営化されていきましたね.外国企業との良好なパートナーシップがむすばれ,輸出主導の成長がなされた.
しかし,こうしたことはすべて,共産党の手にいまなお権力が集中されている政治体制の文脈でおきたんですよ.もちろん共産党はもはや共産主義者なんかじゃない,ただの名前にすぎません.しかし,権力は彼らの支配下にあり,彼らはその権力をもちいて中国の大半の地域に安定をもたらすと同時に,みずからの便益のために成長のプロセスを指導したわけです.
さて,ここで問題なのが,「こういう成長プロセスはこれからどうなるか?」です.ブラジルやトルコと経験したのと同じ問題にはまりこんで,インサイダーが駆動する成長がしばらくつづいたあと政治的な開放のないまま結局はいきづまるのか,それとも,中国でおきているように政治体制にもかかわらず再配分のプロセスがおきておそらく最終的には政治体制が革新されるのか?
どうも,中国について考えているひとたちで,中国の政治経済システム内部でおきていることを本当にくわしく知っているひとはほとんどいないように思いますね.そうした知識なくして,中国の未来がどうなるか知るのはすごく難しいでしょう.
さっきの質問には,また別の側面ももちろんあって,それは,サハラ以南の多くのアフリカ諸国,中米の多くの国々と南アジアの少数の国々は,世界でもっとも貧しい国で,底辺にあるわけですが,中国が離陸を果たしたいま,こうした国々はどうなるのかという問題がある.
で,ぼくは非常に楽観的でこうした国々には成長をうみだす潜在力はあると思いますね.ただ,そうは言いつつも,〔そうした国の成長は〕この5年や10年ですぐさま起こるようなことでもないだろうと思うんですよ.というのも,政治的な問題はなおも深刻ですからね.つまり,ミャンマーあるいはビルマでは,安定した政府,それもせめて準-民主的な政府への平和的な移行がおきないかぎり,成長が起こることはないでしょう.
中米では,いまも紛争がつづいていますね.20年前よりずっとましな状況になったとはいえ,しかし,教育,公共財,人口を体制に取り込むためのもっと体系的な投資プログラムが必要ですね.ラテンアメリカでは,状況はまったく新たな様相を呈していて,モラレスのような民衆的な指導者が権力の座についています.
つづいて問題となるのは,「ここからどういう事態につながるのか?」ということ.現状から,ポピュリストの台頭する時代に逆戻りするのか,それとも,ブラジルのルラ政権下でおきたような一種の総合に向かい,人口の圧倒的多数を成長のアジェンダにとりこむ役割がはたされ,彼らの生活水準にとっても彼らが市場経済にじっさいに参加するのにとっても必要不可欠な公共財が彼らに提供されるのか,そこが問題です.
もちろん,サハラ以南のアフリカでは,状況はまったく異なります.つまり,軍閥政治をあるレベルでとりのぞく必要がある.アル=バシールやムガベみたいな連中を排除する必要があります.おそらく,さらにコンゴのような場所では新たな体制が必要になるでしょう.コンゴは完全な無法状態で,これでは新技術や物理資本をやしなうような環境などうまれません.
夜までなかなか手を加えられませんが,訳文の問題点がみつかりましたら,コメント欄か twitter でご指摘ください.
→つづきます.