言語学者は,オースティンが「不適切」という語を,可能なかぎり広く適用されるような包括的な用語として使っているという事実を見落としている.言語学者は一般に,「不適切」という語を文に適用し,ある種の新語として使っている.その場合,「不適切」ということで,「統語論的・意味論的には問題ないが,語用論的に欠陥がある」といったことを意味している(ただしそこで,どのような仕方で欠陥があるかは,十分に特定されているかのように思われているが,実はまったく特定されていない).
(W.G.ライカン,『言語哲学』,訳書 p. 261, fn.5)