言葉の定義を一貫させること
コメント欄で Water no get enemyさんがよい話題を提供してくださったので,少しこちらで補足しておきます.
論証では,言葉の定義をひとつにして一貫させないと,間違った推論を正しいと誤解してしまいかねません.このことは,たとえばアンソニー・ウェストンの A Rulebook for Arguments で次のように解説されています:
ルール7 言葉の意味はひとつに限定する
自分の言い分を立証しようとして,言葉の意味を転じてしまう場合がある.これは曖昧表現による誤謬の典型的な例だ.女性と男性は,そもそも肉体的にも精神的にも異なる存在だ.だから,女性と男性は「等しく」はなく,それゆえに,法律は両者を等しく扱うべきではない.
この論証はちょっと見ると理にかなっているように思えるが,前提と結論とでは「等しさ」の意味するところがちがっている.たしかに,単純に「同一である」という意味では,男性と女性は「等しく」ない.だが法律がいう「等しさ」は,「肉体的および精神的に同一であること」ではなく,「同じ権利および機会を与えられること」を意味している.だから,「等しさ」の意味合いのちがいを考慮して言い換えれば,こんな論証が考えられる.女性と男性は,肉体的にも精神的にも等しい存在ではない.それゆえ,女性と男性は同一の権利や機会を与えられていない.
この論証では,「等しさ」についての曖昧表現はないが,かといって良い論証とはいえない.不十分な論証であることがはっきりしただけだ.曖昧さが取りのぞかれてみると,この論証の前提は,結論を裏づけていないどころか,まるで関連がないとわかる.肉体的および精神的に異なることが,どうして権利や機会の付与に関連しているのか,その理由はまったく示されていない.
(アンソニー・ウェストン『論理的に書くためのルールブック』,PHP,2005年,pp.29-20;太字強調は引用者によるもの)
私たちの日常言語では「論理的な」という言葉が複数の意味で使われていますので,「〜は論理的である」といった主張に行き当たった時にはこのルールが守られているかどうか確認すると妥当な論証とそうでないものとを区別しやすくなります.
余談ながら,この本はコンパクトで明快に書かれており,おすすめです.
- 作者: アンソニーウェストン,Anthony Weston,古草秀子
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2005/09
- メディア: 単行本
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高校生くらいの方なら,上記の訳書を頼りにしながら原書の方に挑戦してみるといいかもしれません:
- 作者: Anthony Weston
- 出版社/メーカー: Hackett Pub Co Inc
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通読すると,論述に関する基本的な表現が覚えられてお得です.
年明けには新しい版がでるようです:
A Rulebook for Arguments (Hackett Student Handbooks)
- 作者: Anthony Weston
- 出版社/メーカー: Hackett Pub Co Inc
- 発売日: 2009/01/31
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