「〜にすぎない」


「x は Fにすぎない」は「x は Fである」を論理的に含意します.たとえば「彼はバイトにすぎない」は「彼はバイトである」を含意します.「彼はバイトにすぎない」と「彼はバイトでない」は矛盾をきたします.

一方で,「x は F にすぎない」には,「x は G ではない」という暗黙の意味もあります.(なお,この2つの述語 F と G にはなんらかの尺度で F < G という関係がなりたっています:e.g. 組織内の地位という尺度において「バイトである」 < 「正社員である」)

この述語 G は明示されておらず,聞き手により推測されねばなりません.たとえば,「〜はバイトである」 < 「〜は正社員である」という関係で「彼はバイトにすぎない」から「彼は正社員ではない」などが推測されるわけです.

よって,「〜はFにすぎない」という言明の内容を,その暗黙の意味まで含めて明確にするならば,「〜は F であり,かつ,〜は G でない」というかたちにできます.

ここで注意すべきは,関連する述語 G が存在しないならば「F にすぎない」と「F である」に実質的なちがいはなくなる,ということです.そうした場合,「〜にすぎない」という表現は空疎な使われ方をしていると言えるでしょう.

じぶんの文章で何気なく「〜にすぎない」と書いているのに気づいたら,「〜は F であり,かつ,〜は G でない」に書き換えることができるかどうか調べてみると,その表現が空疎なものであるかないかを確かめて推敲できます.