エイチソンの教科書から「転位」の項目


ジーン・エイチソンせんせいの初歩的な解説.これを含む第2章の訳文は,閲覧を限定した「ひみつきち」に置いてます:ここ (PDF).

転位


大半の動物は,すぐそばの環境にある物事についてしか伝達できない.鳥が危険についてさえずれるのは,危険がまわりで発生したときだけだ.時間や距離の離れている災いについては情報を伝えられない.このタイプの自然に発生するさえずりが人間でいうと何に似ているかと言えば,十全に発達した言語よりも,人が痛みや飢えや満足を感じてあげる感情的な叫び声に近い.

【ココ重要!】
他の大半の動物とちがって,人間は時間や距離で遠く離れた物事について語ることができる.


これと対照的に,人間言語はそこにある物事と同じくらいかんたんに,そこにない物事についても伝達できる.これを転位 (displacement) という.転位は明らかにまれな現象で,動物界には時折にしか現れない.そのまれな例としては,ミツバチのコミュニケーションが挙げられる.働き蜂が新しい蜜のありかを見つけると,巣に戻って,複雑なダンスを踊って仲間のハチたちにこの蜜の正確な位置の情報を伝える.その位置は巣から数マイルも離れていることだってある.でも,ミツバチのこの能力にも限界がある.ミツバチたちがたがいに伝え会えるのは,蜜のありかだけだ.人間言語はどんな物事だって取り扱えるし,会話を交わしている時と場所からどんなに遠く隔たっていても大丈夫だ.