ミツバチの学習とコミュニケーション(ウィキペディア)

(updated: 2011/12/11)

こわいお兄さんが訳せとおっしゃる.*1

"Bee learning and communication," wikipedia.
(http://en.wikipedia.org/wiki/Bee_learning_and_communication)


とりあえず途中まで.だれか手伝ってください.

学習 (Learning)


食糧を効率よく収集するには学習が欠かせない.花粉拡散の見返りに花から得られる蜜はわずかであるから,同じ花にミツバチが何度も繰り返しやってくることはほとんどない.1匹のミツバチは朝のうちにさまざまな花を訪ねわたる.そのさいに特定種の花で十分な報酬がえられれば,以後はその花が報酬を産みださなくなったり天候が変化するまでそのタイプの花を訪ねてまわる.ミツバチは連合学習に長けている.古典的条件付けの実験には脊椎動物の方が用いられることが多いが,ミツバチがみせる古典的条件付け学習は脊椎動物のそれと同じかたちをとる.


ミツバチの学習実験では,働き蜂に単純なY字型の分岐による迷路を進ませて訓練をほどこす.迷路の入り口には決まった色が塗ってある.迷路の内部には分岐点があり,この地点でミツバチは2つの経路のどちらかを選ぶ必要がある.一方の経路は行き先に食糧の報酬が用意してあり,こちらには迷路の入り口と同じ色が塗ってある.他方の経路にはこれと異なる色が塗られている.この訓練の結果,ミツバチは正しい経路を選ぶよう学習した.しかも,色の標識のかわりに別種の標識(さまざまな方向を指した白黒縞模様)を用いても同じく学習しつづけた.実験条件を変えて,入り口の標識と異なる標識が正解となるようにしても,ミツバチは正しい経路を学習した.トンネルを長くのばして正解の経路をしめす1つ目の標識をみてから次の標識をみるまでの時間を長くしたところ,ミツバチは視覚のワーキングメモリを約5秒まで保持できることがわかった.これは鳥の短期記憶に等しい.*2

ミツバチの色彩学習 (Color Learning in Honeybees)


ミツバチ(セイヨウミツバチ Apris mellifera)の連合学習を実証するのにもっともよくある方法の1つは,色彩を認識・識別する課題の文脈でなされる.ネズミやハトのような脊椎動物が訓練によって連合学習課題をこなせるようになるのと同じく,ミツバチも色彩の識別と記憶に関わる課題のすぐれた実験対象になる.1900年代はじめごろから,科学者カール・フォン・フリッシュとランドルフ・メンツェルが蜂の色覚の存在・学習速度・記憶・タイミングについて考察をはじめた.*3

色彩識別 (Color Discrimination)


オーストリアの動物学者カール・フォン・フリッシュがミツバチの色覚を研究し始めたのは1919年のことだった.彼がたてた最初の問いはこうだった:「ハチに色覚はあるか?」 ハチの連合学習能力を利用して,彼は見事な実験をやりとげ,ミツバチはたしかに色彩識別ができることを示した.[2]


色覚を検証するため,フォン・フリッシュははじめに蜜に似た砂糖水で満たした小さなお皿で給餌してミツバチを訓練した.[2] このお皿は青く塗った小さなボール紙に載せてあり,給餌されるハチたちにこの青い色が見えるようにしてあった.ハチたちがいったんこの青いボール紙になれたところで,フォン・フリッシュはこの青いボール紙の周りに,同じサイズのボール紙をたくさん配置した.それぞれの紙はグレーの濃淡をさまざまに変えて塗装してあり,どれも小さなお皿が載せられた.[3] ハチに色彩の識別ができないのだとしたら,青い紙とその周りのいろんな濃淡のグレーの紙との区別がつけられないだろう.よって,ハチに色覚がなければ,ハチたちはグレーの紙と青い紙に同じ頻度でとまるだろうとフォン・フリッシュは予測を立てた.色覚がなければ両者の区別がつけられないはずだからだ.[2]


ところが,フォン・フリッシュがハチたちを皿から皿へ自由に飛び回らせてみると,大多数のハチがまっすぐ青いボール紙へと飛んでいった.事前に砂糖水の報酬を得ていた色だ.このようにいきあたりばったりでなく青いボール紙を目指して飛んだことから,たしかにミツバチにはグレーと青い色調の区別がつくことがわかった.ミツバチには色覚があったのだ.[3] フォン・フリッシュはこの同じ基本実験を繰り返して,ハチは他の赤色や黄色といった色でも同じ結果を残すことを確かめた.[2] のちに,他の研究者たちはこのすぐれた実験デザインを他の脊椎動物にも応用していった.これにより,この実験デザインは多くの生き物で色覚があるかどうかを検証するのにかけがえのない方法となった.

色彩学習率と色彩選好(Color Learning Rates and Preferences)


(※このセクションは po____さんの投稿によるものです)


フォン・フリッシュの初期の仕事に続いて,ドイツ人科学者ランドルフ・メンツェルはミツバチの色覚の研究として,より精緻な実験を行った.彼は,ミツバチが最も速く学習できるのはどの色か,特定の色についてより優れた学習能力を示すのかどうかといったことに興味を持っていた.


彼は,色と強度を調整できるようなライトで光の輪をつくった.彼の実験条件はフォン・フリッシュが色つきボール紙を用いたものと似ているが,メンツェルはボール紙の代わりにライトを用いることで,光の色と強度を容易に調整できるようになった.ライトの調整だけで,様々な実験条件が容易に手に入るのである.


メンツェルは,フォン・フリッシュによって示されたハチの色覚の複雑さを検証するため,異なる2色の識別能力がハチにあるか調べる実験を行った.メンツェルは,砂糖水報酬を与える小さな皿を色のついた光の輪で囲み,さらにこの皿と少し離したところに別の皿を置いて,こちらを別の色の光の輪で囲んだ[2].その後,それらの光から等距離の所から1匹のハチを離し,砂糖水のある皿を探索させた.1枚の皿には砂糖水があり,もう1枚は空である.メンツェルはこのような実験を通して,報酬の色を選好して探すよう学習するまでの(そして報酬のない色を無視するまでの)時間を測定したのだ.


実験の結果,ペアにする色が違っても,ハチは区別しなかった(ペアの単位では区別しなかった).最も速い学習率を示したのは,紫色の光が報酬に割り当てられたときだった[4].最も学習が遅かった(困難だった)のは緑色で,他の色はそれらの間の範囲におさまった.この生得的バイアスに関する知見は,進化的に妥当なことである.このような色覚を持っていることで,花蜜をもつ花―この花が報酬の皿に相当するのだが―をそれぞれ区別することが可能になるからである[4].多くの花は緑色というより紫色に近く,ハチが栄養にありつけるような色に対して敏感であるというのは頷けることである[2].

色彩記憶(Color Memory)


(※このセクションは po____さんの投稿によるものです)


色の選好に関する仕事に続いて,メンツェルはその実験を拡張して,色覚にみられる記憶を研究した.彼は,以下のことに興味があった.それは,ハチに複数の選択肢(色)を与えた場合に,報酬に対応する色がどの色であるか学習するのに,何回の試行を必要とするのか.それと,その学習した色をどれくらいの期間維持できるのかである.

これらを調べるためにメンツェルは様々な実験を行った.
まず,砂糖水を用い,背景色に対する報酬の関連づけを一回行った [4].その次に,それらの個体を小さな虫かごに移し,新しい試行を行わない状態で数日間保持した.数日後,それぞれ異なる背景色の皿を同時に見せた.ちなみに,そのうちの一枚を,最初の試行で用いた色と同じにしていた [2].他のものは初めて見る,報酬づけられていない色である.驚くべきことに,たった一回の試行を行ったのちに数日間のブランク(報酬づけられた色への曝露が無い期間)があったにも関わらず,ハチ達は50%以上の確率で,最初の試行で用いた色を正しく選んだのである [4].

メンツェルは他のグループのハチについてもこの実験を繰り返した.今度の実験では,他の条件は全て同じにして,最初の条件付けの試行を1回ではなく3回行ったのである [4].7日間の隔離(confinement)の後,最初の実験同様,ハチに色の選択をさせた.ハチは実質100%の確率で最初の試行で用いた色を選んだのである [4].

報酬に関連づけられた色について,少ない回数の経験を7日間以上にわたって情報を維持する能力は,ハチの記憶にとって色覚が大きい比重をもつことを示している.

色彩学習のタイミング (Timing in Color Learning)


(※このセクションは po____さんの投稿によるものです)


フォン・フリッシュの生徒(訳注 Menzelの生徒では)であるエリザベス・オフィンガー(Elizabeth Opfinger)は,ハチが餌箱に近づいたときに色を学習するということに気付いた.これを受けてメンツェルは,ハチはどのようなときに色に注目しこれを学習するのだろうか,と問いを深めた.彼はハチが色に注目するのは,砂糖水の報酬を得る前なのか最中なのか後なのかを明らかにしようとした.メンツェルはこの興味深い問いを調べるため,採餌の段階ごとに,報酬を与える皿の色を色分けした.段階というのは,餌場に近づく段階,餌をとっている段階,出発した後の段階である [2].


実験の結果,ハチは餌場に近づく段階と餌をとっている段階のときに,色に対して注目していることが分かった [5].ハチが正確に色を覚えるためには,おそらく約5秒を要するということも分かった [5].微妙に個体差はあるものの,メンツェルと共同研究者は,餌場へ接近している時に刺激を3秒,餌を摂取している時に刺激を2秒与えたとき,最もよく色を記憶するということを発見した [5].

色覚の神経生物学 (The Neurobiology of Color Vision)


ミツバチの色覚は,複眼の構造・組織に着目した神経生物学的な観点からも研究できる.


1975年にメンツェルはミツバチの目の形態とスペクトルへの感応性を記述した独創的な論文を公表した.[6] 彼が調べたのはミツバチの網膜における色彩コーディングで,個々の細胞に蛍光塗料でマーキングしこうした細胞をひとつの単位として記録するという方法を用いた.こうした精細な構造分析により,ミツバチの目には3タイプの受光器があることが判別できた: 1) UV受光器,2) 青色の受光器,3) 緑色の受光器.[6] これら3タイプの受光器では,ロドプシンに似た3つの色素が重要な要因になっている.3つ色素はそれぞれ最大吸光度が 350nm,440nm,540 nm となっている.[6]


細胞を詳しく調べたところ,受光器細胞の各タイプごとに特有の特徴が区別された.UV細胞は他より長い視線維を形成している.[6] こうした長い視線維は樹枝状分岐をなして網膜深くに入り込んでいる.青色および緑色の受光器細胞は,これよりもっと浅いところに線維をもっている.


興味深いことに,メンツェルはじぶんが研究した細胞の大半に二次的な感応性があることをみいだした.この二次的な感応性は,他2タイプの受光器が最大限に賦活される波長に対応していた.[6] 彼はスペクトル効率実験を用いて,こうした互いに対応した波長の受光性が電気的なカップリングの産物であることを示した.[6]

*1:ここここ

*2:Zhang, S; Bock F, Si A, Tautz J, Srinivasan MV (April 5 2005). "Visual working memory in decision making by honey bees". Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102 (14): 5250–5. doi:10.1073/pnas.0501440102. PMC 555688. PMID 15795382.

*3:Carew, Thomas J. (2000). "9. Associative Learning in Honeybees". Behavioral Neurobiology: The Cellular Organization of Natural Behavior. Sinauer Associates. ISBN 978-0878930845.