補足:過去完了の時間指示について
【追記】:wimble/wirnbleさんからのコメントで,当該の図で意図されていることについてご説明いただきました.
コムリーの翻訳エントリで,"he had already left again before Jane arrived" の時間順序を見やすくするため,次の図を付け足しました:
これに対し,「はてなブックマーク」の方で,id:wimbleさんに次の図を提示していただきました:
拝見したところ,おそらくは John had left と Jane arrived が同時であることを図示しているものと思います(図の右側).
ぼくの図は,この2つの出来事が先後関係にあることを示していますから,これが間違いであることを指摘する意図で提示されているとぼくは理解しています.
しかしながら,この例文において,leave と arrive で指示される出来事が同時であるという解釈はありえません.理由は単純で,before により出来事の先後関係が明示されているからです.
ただし,wimbleさんの図が示すように John had left と Jane arrived が「同時」といえる見方もあります.それは,前者の参照時と後者の事象時とが同時である,という見方です.
過去完了の一般的な意味
まず,過去完了があらわす意味について,おおまかに復習してみましょう.
過去完了が示す時間関係は,過去時制と助動詞 HAVE の組み合わせによりできあがっています.
第一に,過去時制はなんらかの参照時 R が発話時 S より過去にあることを示します:R_S
第二に,助動詞 HAVE は動詞の表す出来事の時点 E がこの参照時 R よりさらに過去にさかのぼった時点にあることを示します:E_R
この2つの関係を合わせると,E_R_S という時間関係がえられます.
たとえば,ベイカーは "Martha had won the election" の時間指示を次のように図示しています*1:
これにならって過去完了の時間指示を一般化して表すなら,次のようにできます:
he had already left again before Jane arrived
では,当該の例文 "he had already left again before Jane arrived" の時間関係をこの図にあてはめてみましょう:
主節の過去完了 he had left は,参照時が発話時より前にあり,事象時はその参照時より前にあることを表します.
他方,過去時制 Jane arrived が指示する過去の出来事は,この参照時の具体的な内容を提供しています.
つまり,he had already left の参照時イコール Jane arrived の事象時となっているわけです.
この関係を指して,2つが「同時」であるというのは正しいでしょう.
しかし,過去完了の HAVE により参照時より前に leave が起きていることが示されていますし,また, X before Y はあくまで 2つの出来事が先後関係にあることを示しています.
コムリーの例文の主眼
さて,このように解釈される当該の例文ですが,コムリーがこの例で示そうとしたのは,次の一点です:
- 過去完了の方が過去時制よりも現在に近い出来事を表すこともある
ここまでは一部だけをとりあげてきましたが,もともと彼があげた例はこうでした:
John arrived an hour ago, but he had already left again before Jane arrived
(ジョンは1時間前に到着した.だが,ジェーンが到着する前にすでに彼はまたも立ち去っていた)
ここで 最初の John arrived は過去時制,その次の he had already left は過去完了です.動詞の形式だけに注目すると後者の方がより遠い過去になりそうな印象を生みますが,実際には「ジョンが到着する→ジョンが立ち去る」という順序になっています.たかだかそれだけのことです.
*1:Baker (1989) English Syntax, p.448