「現在の意志」とはいうものの…
いえ,ハタと気になったのですが.
次のような例では,明らかに話し手は動詞句の行為をやろうという意志を表明しています:
そういうことでしたら,明日の朝,ぼくが空港まで先方をお迎えに行きます.
こうした例を記述するとき,おうおうにして「(話し手の)現在の意志」が表されている,といった言い方がなされるのですが,これは少々ミスリーディングなような気がします.
というのも,その「意志」は行為の達成まで持続することが含意されていると思われるからです.
つまり,発話の現在でだけ意志をもっていると言うのだとしたら,その後で意志がなくなることになってしまいます.これは変です.
また,わざとらしい作例ですが,次のように意志をなくすことを明言すると矛盾が生じます:
そういうことでしたら,明日の朝,ぼくが空港まで先方をお迎えに行きます.
もっとも,今日の夜中にはそんな気はなくしてしまうでしょうけど.
もちろん,現実にはほんとうに意志をなくしてしまうこともあるでしょうけど,それはここでのポイントではなくて,「(自分が)X-する」という断定の意味内容には,「行為が達成されるまでその意志が継続すること」が含まれているはずです.別の言い方をするなら,「(自分が)X-する」断定すると,「X-しようという意志」がXが達成されるまで継続することにコミットすることになるわけです.
「現在の意志」というときの「現在」とは,このコミットメントが発生する時点を指しているのであって,意志の成立している期間が「現在」に限定されているという趣旨にとるのはおかしいように思います.
とくに不思議にも思わず「現在の意志」といったラベルを使ってきたのですが,ちゃんと詰めていなかったかもしれません.