まぎらわしい哲学用語


ブログ Philosophy, et cetera から小ネタのエントリを訳して紹介します:

まぎらわしい哲学用語

(Misleading Philosophical Jargon)


物事をわかりやすくするどころか逆にわかりにくくしてる哲学用語といえば,みんなが思い浮かべるのはどれだろう?


用語のなかには,いろんなかたちで(意図せざる)あいまいさをにじませてしまうやつもある.たとえば「自律性」とか「内在的価値」といった用語はそうだね.文脈によっては安心して使えるけど,こういうあいまいな用語は念頭にある意味をもっと正確に伝える用語に置き換えてあげた方がいいことも多そうだ.


(付け足し:多義的な言葉がみんなよろしくないってわけじゃない.「内在主義」とか「主観主義」はすごくたくさんの語義であたりまえに使われているけど,まぎらわしいケースは滅多にないし――ここで書いておいたように,もっといい用語があるわけでもない.


他方で,どうにもひどい名称の用語や,誤解しやすい含みのある用語もある.たとえば:


(1) 「可能世界」はほんとは世界の可能な状態のこと,または世界の記述のことだ.これに関連して,ある世界「での」真偽が語られたりするけど,ある世界記述「に応じた」真偽といった方がよさそうだ.*1


(2) ムーアのいう「自然主義的誤謬」は規範的還元論のことを指してるけど,二重に困りものな用法だ.第一に,それと別の「X は自然だ」から「X はいいことだ」に進む誤謬を指す,ずっと思い浮かべやすい用法と競合してる.第二に,ムーアの用法はそれ自体としても気がきいてると言えない.彼が標的にしたのは自然主義そのものじゃあないからだ.規範的還元論を《神の命令説》(の特定バージョン)による超自然主義バージョンにすることだって可能だからだ.(ところで,論敵の主張を「誤謬」よばわりするのはなんとも感心しない話だよね.)


他にもっと思いつくのがあれば教えてほしい(なんならリストにしてくれてもいい).

*1:原文では talk of truth "at" a world と truth "according to" a world-description.