twitterログ:「長い本」とファセットのはなし

追記:「ファセット」についてはこちらのエントリを参照してください:意味論・語用論の用語:「ファセット」


 twitterで思いつきを書いたら他の人が話をふくらませてくれたでござる,の巻.

 shokou5さんとbe_koさんの許可をもらって転載します.


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optical_frog:
例."Dan Dennett has written this long book" の "long" は面白い*1. 4:42 PM Jan 17th from web

optical_frog:
意訳すれば「デネットがこんな分厚い本を書いてる」となるんだけど,"long book" の long は冊子 [TOME] としての本じゃなくて,その内容 [CONTENT] を修飾してる.... 4:44 PM Jan 17th from web

optical_frog:
こうした修飾の仕方そのものはよく知られている(チョムスキーてんてーも束縛原理の説明で使ってた)*2.名詞全体じゃなくて,そのファセットだけを選んで修飾する.... 4:45 PM Jan 17th from web

optical_frog:
"long book" が個人的に面白いのは,内容が long だというだけでは完全な意味になってないように思えるから.... 4:46 PM Jan 17th from web

optical_frog:
内容を consume する 時間 が長いとか,そこまで詰めないとカテゴリーがあわないように思えてならない.... 4:47 PM Jan 17th from web

optical_frog:
book -> content -> reading -> time + long ということになるのかな,と考えたり,いや,そうじゃなくて long は time の領域で解釈されるようになってるんじゃないか,と考えたり.... 4:50 PM Jan 17th from web

optical_frog:
このあたり,修飾や叙述の最近の研究だといろいろありそうだけど,不勉強でよく知らないしなぁ. 4:53 PM Jan 17th from web

optical_frog:
ついでながら,「長い本」は日本語ではおかしいかもしれないと思ったけど,案外そうでもないみたい.... 4:59 PM Jan 17th from web

shokou5さん:
@optical_frog 僕の場合、「長い本」は若干違和感がありますが、「長い映画」は全然だいじょうぶです。どちらも media -> content -> consuming -> time + long だとすると違いはどこにあるんでしょう。media の物理的形態 ... 5:02 PM Jan 17th from Twit in reply to optical_frog

shokou5さん:
@optical_frog media の物理的携帯の問題でしょうかね。本は箱型、映画は巻物。 *Tw* 5:03 PM Jan 17th from Twit in reply to optical_frog

optical_frog:
@shokou5 日本語で「長い本」・「長い映画」はどちらも用例がみつかるんですが,映画は必ずはじめからおしまいまでシーケンシャルに見ますよね.そこがポイントかなと思います.たとえば,「長い小説」と「長い百科事典」をくらべてみるといかがでしょうか.... 5:06 PM Jan 17th from web in reply to shokou5

optical_frog:
(※個人的な語感:「長い小説」はOK,「長い百科事典」はヘン.「分厚い小説」・「分厚い百科事典」はどちらもOK.)... 5:08 PM Jan 17th from web

shokou5さん:
@optical_frog なるほどー流石です。簡単に説得されました! *Tw* 5:08 PM Jan 17th from Twit in reply to optical_frog


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optical_frog:
専門じゃないけど,「長い」+名詞は面白いなぁ.「長い」で修飾される名詞が「CD」とか「フィルム」みたいな〈記録媒体〉のとき,そこから「曲」や「映画」みたいな〈内容〉のシーケンシャルな消費の仕方を喚起して修飾関係を理解してるように思えてならない.... 4:08 PM Jan 19th from web

optical_frog:
「長い辞書」とか「長い百科事典」が不自然に感じられるのは,その媒体に記録されてる内容を最初からシーケンシャルに読んでいくとは考えられないからだろう.... 4:10 PM Jan 19th from web

optical_frog:
「本」の修飾は語義に〈内容〉と〈冊子〉のファセットがあるという話は聞くけど,それだけじゃだめっぽい.〈内容〉の消費フレームがあってはじめて自然/不自然の対比を説明できるんじゃないか.... 4:14 PM Jan 19th from web

optical_frog:
とっくに誰かが言ってそうだけど. 4:15 PM Jan 19th from web

shokou5さん:
○長いレコード △長いカセット ○長いCD ○長いMD *長いiPod / リスニング・スタイルの在り方の変化を反映しますね。カセットが変な感じがするのは、内容にかかわらずランニングタイムが一定だから、かな。 *Tw*... 4:19 PM Jan 19th from Twit

shokou5さん:
長い MD も変かな。 *Tw* 4:20 PM Jan 19th from Twit

optical_frog:
@shokou5 それ面白いですね.聴く人が曲を能動的に飛ばしたり選択したりするケースが当たり前になっている媒体ほど「長い」と相性が悪くなる,というわけですね.... 4:23 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

shokou5さん:
@optical_frog 単純に対象の性質だけではなく、それを使用する側の態度も反映されているのが面白いですね。まあ、リスニングスタイルも対象がアフォードしているのでしょうけれど。フレームをかなり広くとらないと説明できない例でしょうか。僕は意味論はド素人なのですが。... 4:27 PM Jan 19th from web in reply to optical_frog

optical_frog:
用例:「長いカセットテープで途中でダビングをやめないでコピーしてしまえばよい」;「160分もある、この長いカセットテープ続けて聞けば、両面で2時間 40分にもなるが」;「もちろん無限に長いカセットテープなど用意できる訳が無く」──こういうのは物理的なテープの長さかなぁ.... 4:26 PM Jan 19th from web

optical_frog:
CDとちがって,カセットだと「テープ」=媒体の物理的な長さと収録される音声の時間的な長さとが対応してるし.... 4:27 PM Jan 19th from web

shokou5さん:
@optical_frog そうですね、収録可能時間に焦点があたる場合と、コンテンツに焦点があたる場合とで、「長い」の使い方も変わるんですね。... 4:29 PM Jan 19th from web in reply to optical_frog

optical_frog:
@shokou5 モノ自体の性質じゃなくて,モノへの関わり方(の知識)が関連してるみたいですね.いや,参考になりますです.... 4:29 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

optical_frog:
あ,レスがずれちゃった. 4:30 PM Jan 19th from web

optical_frog:
哲学に詳しいひとだと,こういうときにハイデガーてんてーを引用できるのかしら. 4:32 PM Jan 19th from web

optical_frog:
ちょっと考え直した.「シーケンシャル」は重要じゃないっぽい.〈内容〉を消費する活動は必ずシーケンシャルだから.... 4:35 PM Jan 19th from web

optical_frog:
そうじゃなくて,「長い」+〈媒体〉の組み合わせでは,その媒体にのってる〈内容〉まるごとが消費されるっていう制約がかかってると見た方がよさそう.... 4:36 PM Jan 19th from web

optical_frog:
「長い本」なら,そこに書かれている物語なり議論なり全体を読む行為にかかる時間が「長い」となる.対照的に,「百科事典」は(ふつう)そういう読み方をしないから,「長い百科事典」が不自然に感じられる,という具合.... 4:39 PM Jan 19th from web

shokou5さん:
@optical_frog 「槌を揮うことは、槌にそなわる道具的性格についてのたんなる知識しかもたないだけではなく、それ以上適切にはできないほどこの道具をすっかり自分のものにしている。このような交渉において道具を使用しながら、・・・ *Tw*... 4:35 PM Jan 19th from Twit in reply to optical_frog

shokou5さん:
配慮は、それぞれの道具を構成している<…するためにある>という指示に服している。」 あたりですかねー *Tw*... 4:35 PM Jan 19th from Twit

shokou5さん:
適当ですが「存在と時間」から適当にコピペです。@contractio さんにへんとうたいを赤く光らせられてしまうかも。 *Tw*... 4:36 PM Jan 19th from Twit

optical_frog:
@shokou5 Σなぜ即座にでてくるですか!? 4:37 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

shokou5さん:
@optical_frog 前、ブログに使おうとして入力しておいたものがあったのでした笑 *Tw* 4:37 PM Jan 19th from Twit in reply to optical_frog

optical_frog:
@shokou5 「もしや shokou5さんは『存在と時間』を自在に暗唱できるのかっ?」と思いましたw 4:41 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

shokou5さん:
@optical_frog 確かに自在に暗唱できるのですが、タイプのスピードが追い付かないのでコピペしました。 *Tw*... 4:42 PM Jan 19th from Twit in reply to optical_frog

optical_frog:
@shokou5 わーおw (@△@) 4:44 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

shokou5さん:
わたしの記憶の中には「つねにすでに」『存在と時間』が刻まれている。 4:45 PM Jan 19th from web

optical_frog:
@shokou5 「つねにすでに」きたー 4:46 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

optical_frog:
「シーケンシャル」にひっぱられたのはラネカーのせいということにしておこう. 4:53 PM Jan 19th from web

optical_frog:
「本」の語義にファセットがあるのは信頼できる事実だと思うけど,他はどうか. 4:55 PM Jan 19th from web

optical_frog:
ファセットになってるかテストするには,「Nそのもの」に曖昧さがあるかどうかを見るといい. 4:56 PM Jan 19th from web

optical_frog:
「本そのもの」はこのテストに通る. 4:56 PM Jan 19th from web

optical_frog:
(1) デザインとかレイアウトとか印刷とかには興味ないよ.俺は本そのものに関心があるんだ. 4:57 PM Jan 19th from web

optical_frog:
英語だと I’m not interested in the cover design, layout, printing, and so on. I’m interested in the book itself. 4:57 PM Jan 19th from web

optical_frog:
例文 (2) 「プロットとか人物とか文章の味とかには興味ないよ.俺は本そのものに関心があるんだ.」 4:57 PM Jan 19th from web

optical_frog:
英語だと I’m not interested in the plot, characters, or the quality of the writing, I’m interested in the book itself. 4:57 PM Jan 19th from web

optical_frog:
「本そのもの」(the book itself) が (1) だと〈内容〉ファセットを,(2) だと〈冊子〉ファセットを表してる.... 4:58 PM Jan 19th from web

optical_frog:
つまり,〈内容〉と〈冊子〉が自律的な単位として切り替えられる. 5:00 PM Jan 19th from web

optical_frog:
じゃあ,「CDそのもの」もこれと同じテストに通るかどうか. 5:01 PM Jan 19th from web

optical_frog:
(3) 「傷とか汚れとかには興味ないよ,俺はCDそのものに興味があるんだ」(〈内容〉ファセット) 5:02 PM Jan 19th from web

optical_frog:
(4) 「収録されてる曲には興味ないよ,俺はCDそのものに興味があるんだ」(〈媒体〉ファセット) 5:03 PM Jan 19th from web

optical_frog:
うーむ,どっちもいけるっぽい,かな? 5:03 PM Jan 19th from web

optical_frog:
〈媒体〉を表す名詞がそろってこういうテストに通るなら,日本語話者の語彙には〈媒体〉/〈内容〉のファセットが体系的にあると考えていいわけだけど…... 5:05 PM Jan 19th from web

optical_frog:
語彙意味論のひとがやってたりしないかなぁ. 5:07 PM Jan 19th from web

optical_frog:
でも語義 (sense) より小さい離散的&自律的な意味の単位があるっていう切り口は,どれくらい浸透してるものなんだろう.生成語彙論のクオリア役割なんかはわりと注目されてる(た?)みたいだけど.... 5:11 PM Jan 19th from web

be_koさん::
@shokou5  わたし的には「長いカセット」「長いMD」もありです 120分のカセットとか74分のMDとか、長い  多分、「録音可能な時間の長さ」という認識 ... 5:05 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

shokou5さん:
@be_ko ご意見ありがとうございます。さっきも書いたんですが、使う文脈によって「長い」との相性も変わるんじゃないでしょうか。たとえば人からもらったミックステープが120分収録可能のテープでも収録時間が20分とかだったら「短いね」ってことになるだろうし。 *Tw*... 5:33 PM Jan 19th from Twit in reply to be_ko

be_koさん::
@shokou5 アァー、意見というほどのものですが笑 相性の話は、もちろんそうかと ただ、「長いカセットテープ」と「長い、収録時間」で、後者はより厳密に言えば「長い、カセットに収録されている曲」と言い換えられるような... 5:45 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

be_koさん::
「長いカセットテープ」に収録されている、「長い時間録音した音」 かー 5:47 PM Jan 19th from web

be_koさん::
@shokou5 ×意見というほどのものですが → ○意見というほどのものではないですが  失礼しました

be_koさん::
@shokou5  なるほどー 媒体により成立云々、は、確かにそうですね! 言語認識は興味深いのだけど、どうやって “検証” するのだろう… と、私も口をはさんでみた次第でした フムフム... 6:00 PM Jan 19th from web in reply to shokou5

shokou5さん:
@be_ko うはは、意見というほどのものでしたよ笑。ありがとうございます。長いのはカセットテープそのものではなく、録音された音ですね。けれども人間の言葉はそれを平気で置き換えてしまう。換喩・メトニミーといいます。重要なのは、iPod、CD、カセットといったちょっちした媒 ... 5:52 PM Jan 19th from Twit in reply to be_ko

shokou5さん:
@be_ko 重要なのは、iPod、CD、カセットといったちょっちした媒体の違いや文脈の違いによって、換喩が成立したりしなかったりすることです。その条件を精緻に考察することで、人間の言語認識・意味処理のメカニズムを探ることができるのです。 *Tw*... 5:54 PM Jan 19th from Twit in reply to be_ko

shokou5さん:
…という大仕事を @optical_frog さんはされているのです。僕はたんに口をはさんでいるだけ。 *Tw* 5:54 PM Jan 19th from Twit

optical_frog:
(大仕事じゃなくてただの空想だから恥ずかしくないもんっ) 6:22 PM Jan 19th from web

*1:この例文の出典は Susan Blackmore, Conversations on Consciousness, p.76: Google Book Search

*2:e.g. Noam Chomsky, Language and Problems of Knowledge, pp. 27-29 & 50; Google Book Search; でも束縛原理のところではありませんでした(^^;