抜粋:「理解してもらおうと思って執筆するのではなく──」


イギリスの言語哲学者サイモン・ブラックバーンのインタビューより抜粋:

ここで私は,ジョン・サールがインタビューで語った次の言葉を思い出した──「ある事柄を明晰に語ることができない人は,それを自分自身よく理解できていないのだ」.


「そのとおりだと思います」とブラックバーンは言った.「私は,『言葉を広めること』の序文で,『理解してもらおうと思って執筆するのではなく,誤解されることのないように執筆しなさい』と語ったクインティリアヌスの言葉を引用したことで,バーナード・ウィリアムズに──おそらく正当にも,と言うべきでしょうが──咎め立てられました.ウィリアムズは,それは実現不可能な理想だと私に食いついたのです.私たちは常に誤解される可能性を排除することはできないという点では,彼はもちろん正しいと思います.けれども,クインティリアヌスの言葉のポイントは,『いかなる誤解の余地もないように執筆せよ』ということではなくて,できる限り平明に書こうと努めることは,困難ではあるが,避けて通れない執筆者の義務であるということを,私たちに改めて想い起こさせることにあったのだと,私は考えています.


(ジュリアン・バジーニ&ジェレミー・スタンルーム[編]『哲学者は何を考えているのか』,春秋社,2006年,pp. 351-2)


哲学者は何を考えているのか (現代哲学への招待Basics)

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