抜粋


稲葉振一郎『増補・経済学という教養』(p. 401) より:

折しも「サブプライム問題」に端を発する戦後最大の不動産不況を前に,アメリカ合衆国中央銀行総裁たる,ベン・バーナンキ連邦準備制度理事長は,なりふり構わぬ介入で徹底的な火消しに奔走し,「渋々ながらの革命家」と呼ばれている.言うまでもなくバーナンキ氏は,インフレーション・ターゲティング政策の主唱者の一人である.氏は理論的にはケインジアン寄りであろうが,ジョージ・ブッシュ大統領に指名された共和党員でもある.既に(旧)小泉・竹中路線に対する海外の経済学者たちからの批判,「左」はポール・クルーグマンから,「右」はかつての「ケインジアンマネタリスト論争」の記憶から日本では「市場原理主義」の親玉と毛嫌いされてきたミルトン・フリードマンやロバート・ルーカスまで,口をそろえて金融緩和を提言してきた頃に,すでに問題の所在はあきらかだったはずである.彼らの批判にこたえての政策転換が,小泉・竹中自身によって,しかもなし崩しに行われたという事実.そしてそのことの重みに全く気付かず,相変わらず能天気に「市場原理主義」「ネオリベ」批判に明け暮れる左翼知識人.
 というわけで,まだまだ本書は必要とされているようで,まことに有り難いことです.