理由節についてのメモ:動機型 vs. 非動機型
少しメモを.
理由節には,その節の命題内容が前提されるという叙実性*1 があります.このため,その節の内容を否定すると矛盾が生じます:
[P.風が吹いたので],[Q.桶屋が儲かった].
#でも,[not-P.風は吹かなかった].
一般に理由節には行為の動機をあらわすものとそうでないものとを区別できます.この2つのタイプは,叙実性にちがいがあります.動機タイプではその動作主者/経験者も理由節の命題内容を信じていると解釈されるのに対し,非動機タイプではそのように解釈されません:
(1)
体力が弱っていたので,田中さんは栄養ドリンクを買ってきた.(動機タイプ)
a. #でも,田中さん自身は体力が弱っていると思っていなかった.(主節動作主にとっての前提)
b. #でも,ぼくは田中さんの体力が弱っていると思っていなかった.(話し手にとっての前提)
(2)
体力が弱っていたので,田中さんはカゼをひいた.(非動機タイプ)
c. でも,田中さん自身は体力が弱っていると思っていなかった.
d. #でも,ぼくは田中さんの体力が弱っていると思っていなかった.(話し手によっての前提)
この叙実性のちがいは動機タイプと非動機タイプとを分ける言語的テストにできそうです.
さて,上記の例 (1)-(2) には同一の理由節「体力が弱っていたので」が含まれていますが,その解釈は異なります.つまり,理由節を動機/非動機タイプに解釈する手がかりは主節の意味のちがいに求められると考えて良いでしょう:すなわち,ここでは主節が意志的行為なのかそうでないのかという相違が理由節の解釈を左右している,というわけです.
すると,以下のような一般化ができそうに思えてきます:
- 主節 = 意志的行為 → 理由節 = 動機タイプ
- 主節 = 非行為 → 理由節 = 非動機タイプ
しかし,ことはそれほど単純ではありません.主節を意志的行為に解釈するかどうかを理由節の意味が左右することもあるからです:
(3)
空気がよどんでいたので,山田さんは窓を開けた.
#でも,山田さんは空気がよどんでいると思っていなかった.(動機タイプ理由節→意志的行為)
(4)
催眠術をかけられていたので,山田さんは窓を開けた.
でも,山田さんは催眠術をかけられていると思っていなかった.(非動機タイプ理由節→非行為)
さて,どう考えたものでしょうか…
*1:factivity