ニール・スミスの「序文」から抜粋(還元主義にご注意を)

(…)この論にはさらなる含意がある.それは,科学における還元 (reduction) に関する一般的な見解は不適切だ,ということだ.言うまでもなく,我々としては,心的なものについての諸理論を──言語学も含めて──脳と関連領域の理論に統合したいとは思っている.けれども,分子生物学における革命に関しては生物学の化学への還元の例を取り上げはしたが,統一 (unification) はかならず還元の形をとらねばならないというわけではないのだ.さらに大事な点として,物理的ないし生理的なものが〔他のものに〕優先すると決め付けるのは,誤解だ:言語学の諸理論はとても豊かで,化学や生物学に引けを取らないくらい具体的な予測を広い領域で立てている.現在の我々の理解度では,言語学を神経学に還元しようとしても生産的にはなりそうもない.「事象関連電位」*1 で測定された脳の電気活動のさまざまな含意を考えてみよう.言語学は,さまざまな種類の「逸脱した」言語構造について,まずまず理解している.逸脱は,文法の原理からの乖離により定義される.さて,そうした相違は,どうやら脳の電気活動の特定パターンと相関しているらしい.そうした相関は,言語的事実が神経学によって説明されうることを示しているのだと見なされてきた.しかし,この場合──そしてある程度までは他の場合でも──関連する電気生理学的理論が存在しない以上,それらの結果に意味を与えるのを可能にしているのは言語学なのだ.細胞やニューロンといった〔理論的〕仮設物によって言語に関する興味深い一般化を表現するのは不可能であり,それは,素粒子物理学によって地質学や発生学に関する興味深い一般化を述べられないのと同じことだ.いずれの場合でも,還元を求めるのは行き過ぎである.

(New Horizons in the Study of Language and Mind, Cambridge UP, 2000, p.viii;訳文は引用者によるもの)


New Horizons in the Study of Language and Mind

New Horizons in the Study of Language and Mind


(※ぼくが高校生や大学生のころ,現象を記述するレベルを区別せずに「〜なんて物理現象にすぎない」と言いたがる人に出会うことがたまにあったんですが,いまもそういう方はいらっしゃるものでしょうか?)


■関連エントリ:ジョン・サール「言語はどのようにはたらくか:人間の行為としての言語」

*1:Event-related brain potentials; ERPs