対偶はわかりにくいですよね (another left-over-junk)


ナシーム・タレブ『黒い白鳥』から抜粋.

次の点は,確証のアホくささをさらに例証してくれる.もし白い白鳥をもう一羽見るたびに「黒い白鳥なんていない」という確証が得られると思っているなら,純粋に論理的な理由により,次の言明も受け入れなくちゃいけない──赤いミニクーパーを見かけたら「黒い白鳥ナシ」が確証されることになる,と.


 なんで? 「すべての白鳥は白い」って言明は「すべての白くないモノは白鳥じゃない」に等しいってことを考えてみるといい〔※〕.後者を確証するものは前者も確証するはずだ.したがって,確証で頭が凝り固まったやつは,白鳥以外の白くない物体をみたらそういう確証が得られると推論することになる.この論証はヘンペルのカラスのパラドクスとして知られているものなんだけど,ぼくの友達で(思索好きな)数学者のブルーノ・ドゥピレがこれを再発見した.ロンドンでいっしょに散歩しながら思索に没頭してたときのことだ──ぼくらはよく歩きながら議論するんだけど,このときは没頭しすぎて雨にも気づかないくらいだった.彼は赤いミニクーパーを指さして叫んだ,「ほら,ナシーム,みなよ! 『黒い白鳥ナシ』だ!」


(Nassim Taleb, The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable, Penguin Books, 2007, pp.59-60)


※《「すべての白鳥は白い」って言明は「すべての白くないモノは白鳥じゃない」に等しい》

ここがよくわからないという方は,

「すべての猫は動物だ」=「動物じゃないなら猫じゃない」

を考えてみるとわかりやすいかもしれません.猫はかならず動物だってことは,動物じゃないものはぜったいに猫じゃない──ですよね? この2つは論理学で「対偶の関係にある」と言います:一般に,「P であるならば Q である」の対偶は「Q でないならば P でない」です.「ならば」の前後を入れ替えて両方を否定してやると対偶 (contraposition) ができあがります.ある言明が真(偽)なら,その対偶もかならず真(偽)になります.



──というようなことを若い人にご説明申し上げました.


The Black Swan (TPB) (AUS): The Impact of the Highly Improbable

The Black Swan (TPB) (AUS): The Impact of the Highly Improbable