抜き書き

それでも,非音韻的様式の言語で考えるという発想は,もともとわたしの興味をそそるものではあった.わたしには,両親ともに聴力障害者である友人がひとりいる.彼はアメリカ式手話言語〔ルビ=ASL〕をつかって育っており,しばしば英語ではなくASLで考えると語っていた.わたしはまえから,自分の思考が手技的にコード化されるというのはどういうものだろう,内なる声ではなく内なる両手を用いて論理的に考えるというのはどういうものだろうと思っていたのだ.


テッド・チャンあなたの人生の物語」(公手成幸訳),『あなたの人生の物語早川書房,2003年,pp. 244-5)