英語の未来表現と「総称性」


英語の未来表現について少しメモしておきます.

ポイント1:「確立した未来」の含意


進行形の未来表現と対比したとき,単純現在形の未来表現には「確立した未来」という含意があることが浮かび上がるようです.


R.M.W.ディクソンは,「現実様相の未来 (realis future)」と「非現実様相の予測 (irrealis prediction)」とを分けています(Dixon 2005: 210-211).


・現実様相とは,「過去・現在・未来において実在性を有すること」
・これに対して,非現実様相とは「未来において不確実なこと,あるいは,過去において実現しなかったこと」を言う.


さて,現実様相の未来をあらわす英語の形式として,ディクソンは単純現在と進行形の2つを挙げます.前者は「確立したアスペクト」を,そして後者は「個別のアスペクト」をあらわします.


単純現在 -s:確立した未来 = established aspect; a regular occurrence
進行形 is -ing:個別の未来 = particular aspect; a non-regular occureence

(※単純現在形/進行形の意味がこれに尽きるという趣旨ではありません;これらはあくまで単純現在形/進行形のいろんな用法のひとつです.)


この対比を示す例:

(01)
a. I get paid tomorrow.
   →いつもどおりに給料を払われる.
b. I’m getting paid tomorrow.
   →とくにいつ払われるという決まりはない;今回は,明日支払われる.
(Dixon 2005: 212)

(02)
a. We have a meeting this afternoon.
   →たとえば毎週の定例会が明日あることを相手に思い出させるために言う.
b. We’re having a meeting this afternoon.
  →通常の日程とは別に,特定の会合が催される.
(Dixon 2005: 212)

(03)
a. The sun rises at 7.06 tomorrow morning.
b. *The sun is rising at 7.06 tomorrow morning.
   → (b) は,太陽がじぶんでいつ昇るか決められるかのように聞こえる.
(Dixon 2005: 213)

(04)
a. The cuckoo comes at ten o’clock.
   →カッコウ時計の仕掛けが動く時間を持ち主が10時に決めている.
b. *The cuckoo is coming at ten o’clock.
   →まるで時計がじぶんで10時に動くと決めて持ち主に知らせるかのよう.
(Dixon 2005: 213)

(05)
a. She’s having a baby in June.
b. *She has a baby in June.
   → (b) だと,彼女は毎年6月に出産すると言っていることになる.
(Dixon 2005: 213)

(06)
a. We’re having our own house next year.(〔たとえば〕保険が来年で満期になるので,そのお金を新居の抵当に使うつもりだ[our insurance policy matures next year, and we’ll use the money as deposit against a mortgage for a new house])
b. *We have our own house next year.
   →ふつうの状況で (b) を言うのはヘンだけれど,これがふさわしい場面も想像できなくはない:権威主義的な国家が5年間隔で各家庭にじぶんの家をもたせてやる計画を立てていて,来年はじぶんの順番だというとき.


さらに Copley の博士論文 (2002) から3つの対比を引用します:

(07)
a. Joe is leaving (sometime).
b. #Joe leaves (sometime).
   →単純現在形の未来には定の時間指示(definite time)が必要.
(Copley, 2002: 39)

(08)
a. Guess what? We’re getting married in June.
b. #Guess what? We get married in June.
(Copley, 2002: 39)


[!!] 列挙のイントネーション (list intonation) だと (b) もちゃんと使える:Let’s see. We move in May, get married in June, and start our new jobs in July. (Ibid., 40)
(※これは計画・シナリオの表現となっている.)

(09)
When does Lowe start next?〔「ロウが次に先発するのはいつなの?」〕
a. Lowe was starting tomorrow against the Yankees.
b. #Lowe started tomorrow against Yankees.
c. Jenny said that Lowe started tomorrow against the Yankees.
   →進行形の未来は過去時制で使える;単純現在形は時制の一致をのぞいて不可.


N.B. 単純現在形には,いわゆる「習慣」の用法があります.そして,「習慣」とは,ある期間にわたって規則的に起きる事象のことです.現在形の「習慣」用法では,文の明示的内容そのものが総称的な事象をあらわしています.ところで,以上みてきた現在形の未来表現の場合,そうした総称性はあくまで背景に踏まえられた含意/前提となっています.いわば,総称性が舞台の前面から背景に後退している,とでもいった感じです.


ポイント2:未来の WILL は非現実様相をあらわし,総称性については中立である.


非現実様相の予測と現実様相の未来を対比:

(10)
a. *It rains tomorrow.
b. *It is raining tomorrow.
c. It will rain tomorrow.
   →明日雨がふることに現実性がないから,現実様相の未来は使えない;使えるのは非現実様相の予測だけ.
(Dixon 2005: 213-4)

(11) #She will have a baby in June.
(“It sounds odd to say…”)

(12)
a. She will have a baby quite soon(結婚したときに彼女はすぐにでも家族をもつ計画を立てていると言っていた [when she got married, she said they planned to start a family right away])
   →これは予測であり,現実性を欠いている;彼女はまだ妊娠していない(もしくはできないのかもしれない).

もし妊娠を告知されているのであれば,進行形の (b) を言う:
b. She’s having a baby quite soon.
(Dixon 2005: 214)


N.B. よく言われるように,WILL は「100%の確信」をあらわします:これは,認識の水準での出来事の確実性.ところで,ディクソンが言う「現実性」の欠如とは,認識の水準ではなく現実の水準で出来事が「こうなる」と確定していないことを指しています(なぜならそれが未来だから).つまり,このような WILL は「現実には確定していない出来事についての確信ある予測」をあらわすわけです.(ただ,その確信を担保している証拠について will にはなんらかの制約があるのかどうか,という問題は残りますね.) また,総称性についてはこれを前提せず中立です(i.e. いつもそうなのかもしれないし,今回に限ってそうなのかもしれない).だから,”Tomorrow {will be/is} Friday” のようにカレンダーの総称的な知識を踏まえる言明もできるし,また,前出 (10)b ”It will rain tomorrow” のように総称性となじまない言明もできる,と考えられそうです.

つけたし.


Copley は前出 (03) に関わる大事な観察を述べています:日の出の時刻を進行形で述べるのもけしておかしくなくて,ただ,ある点で現在形と意味が異なっているとのこと.

(13)
a. The sun is rising tomorrow at 5:13.
b. The sun rises tomorrow at 5:13.
(Copley 2002: 36)


引用:

《Leech は文 (40) [=(10)] をおかしいと言っているけれども,私自身も含めて他の人はそれに賛成していない.》

(進行形未来は「計画 PLAN」の意味を含むと Copley は考えるのだが,しかし)
《もし計画を立てるのは有生の存在に限られるとしたら,厄介なことになる:神をのぞいて誰に日を昇らせる計画を立てたりはしないからだ.文 (40) のせいで文法の中に神を措定せざるを得なくなるのだとしたら,なるほどこの問題から逃れられるだろうけれど,でも私はそんなことを言う気にならない;それより,計画という着想はいまひとつ正しくないのだと言いたい.》;《まさに慣性世界 (inertia world) こそがここで使うべき正しい考えだ.というのも,ある時刻に日が昇ることは重力その他によって決定されていると述べるのはまちがいなくふつうのことだからだ.》
(Copley 2002: 36;訳文引用者)


慣性世界を Copley はこう定義しています:

慣性原則:世界は,すでに進行中の事象もしくはそれを駆り立てる原因が進行中の事象の持続ないし完成だけを成し遂げる能力しかなく,またそのことにしか関与していない.[The universe is committed to and has the ability to bring about only the completion or continuation of eventualities that are already underway or whose compelling cause is underway.] (Copley 2002: 37;訳文引用者)

言及したもの:


Copley, Bridget Lynn. 2002. The Semantics of the Future. (Doctoral dissertation at the MIT.)
Dixon, R.M.W. 2005. A Semantic Approach to English Grammar (2nd edition). Oxford UP.


A Semantic Approach to English Grammar (Oxford Textbooks in Linguistics)

A Semantic Approach to English Grammar (Oxford Textbooks in Linguistics)