セックスボット・ラブドール・動くフィギュア:Love + Sex with Robots を読みつつ


なんだかんだ言いつつ,チラチラと Love + Sex with Robots や著者のインタビューを読んでいるのですが,いろいろと面白いです.

Love and Sex with Robots: The Evolution of Human-Robot Relationships

Love and Sex with Robots: The Evolution of Human-Robot Relationships


著者インタビュー Metal Fingers in My Body: Interview with David Levy, Author of “Love + Sex With Robots”より:

【インタビュアーの質問】
Obviously, not everyone will be able to afford robots for sex straight away and top-of-the-line ones will undoubtedly command top dollar. One could conclude from your book that we will one day live in a world where robots designed for sexual pleasure are very commonplace. Do you think there is room for the poor in this vision?
当然ですが,セックス用ロボットがでたとしても,誰もがすぐに買えるわけではないでしょうし,最高品質ともなれば間違いなくたいへんな価格になりますよね.この本からは,性的快楽用に設計されたロボットがごく当たり前の存在となった世界がやがてやってくるという結論が導かれそうです.この未来像では,貧しい者も恩恵にあずかる余地はあるのでしょうか?

【David Levy の答え】
Eventually, yes. You are quite right of course about what will happen in the early days of sexbots ñ very few people indeed will be able to afford to buy one. But the robots-for-hire business model will work. As more and more people experience robot sex and communicate their experiences to their friends, and in the media, so the demand will increase and the price will drop. ìEventuallyî is a very long time, but consider television ñ in the early days very few could afford it, but nowadays some homes have 3, 4 or more TVs.
ええ,やがてはその余地もできるでしょう. おっしゃるとおり,たしかに萌芽期にセックスボットを購入できるひとはごくわずかでしょうね.ですが,ロボット・レンタルのビジネスモデルならうまくいくでしょう.より多くの人がロボット・セックスを経験し,その経験を友人たちに伝えたりメディアで紹介されるにしたがって,需要は増え,価格が下がるはずです.「やがて」と言いましたが,これはかなり長い時間です.ですが,初期のテレビを考えてみてください.購入できるひとはごく一握りでした.しかし,今日では一家に3〜4台以上がありますよね.


ここで彼が述べているロボット・レンタルの予想は,いわゆる「等身大ドール」の事情を調べてみるとたしかにそうだろうと思えます:

等身大シリコンドールが待っている?「秋葉原ラブドールパラダイス りとる☆らばーず」」(2004年12月18日:アキバよもやま[2004])

アキバで3店舗目 ラブドールレンタルスペース「まじかるプリンセス学園」はメイドや巫女も」(2005年04月23日:アキバよもやま[2005])


上記の記事に取り上げられた「りとる☆らばーず」は半年ほどで閉店になっていて,「そう順調にはいかないのかな」と思ったのですが,下記のサイトを見ると全国で似たような店舗ができているのがわかります:

Doll World - 全国ラブドール情報サイト


同じくMetal Fingers in My Body: Interview with David Levy, Author of “Love + Sex With Robots”より:

【インタビュアーの質問】
People buy used laptops and iPods all the time — but on the other, the secondhand market for vibrators, butt plugs and other sex toys is nil. Do you foresee much of a secondhand/refurbished market for sexbots?
中古のラップトップPCやiPodを買う人はいますが,他方で,使用済みのバイブレータだのアナル・プラグだのといった性的玩具の中古市場はありませんよね.中古/改造セックスボットの市場は栄えると予測されますか?

【Levy の答え】
An interesting question that Iíve never been asked and never considered before this interview. I find it difficult to answer this because I just donít know. On the one hand, as I point out in my book, STDs will be transmitted via badly kept sexbots ñ my book gives an example that occurred via a sex doll. But if the depreciation rate is anything like that for motor cars, then presumably there will be a secondhand market for reasons of cost.
面白い質問です.その点を聞かれたのはこのインタビューが初めてですよ.考えたこともなかったですね.答えるのはむずかしそうです.まず一方で──これは著書で指摘したことですが──衛生管理の悪いセックスボットをとおして性感染症が広まってしまいますね.著書でも例に挙げたように,事実これはセックス・ドールで起きています.ですが,中古品の値下がり率が自動車くらいであれば,おそらく価格の低さを理由にセックスボットでも中古市場がうまれることでしょう.

等身大ドールも,中古品の売買がなされているようです.たとえば:

http://www.yumesakikuro.com/doll/top.htm


なお,中古セックスボットによる性感染症のリスクについては,Love + Sex with Robots で「たんに使用パーツを取り外して消毒・殺菌すればよいこと」と書いています(p.300).たしかにそのとおり.ですが,それはリアル・ドールでも同じことのはずなんですよね.

(※Levy は日本の等身大ドール事情──かの「オリエント工業」を中心に──などもよく取材してあります:Love + Sex with Robots, pp.247-253を参照.)



最後に,Levy から離れて,次のパッセージを引用しておくことにしましょう:

(…)あるいは,きわめてナンセンスでコミカルだが,よく考えてみればやはり深刻な例が,『グランサー』の爆笑エピソード「コミケ破壊指令」である.ここに登場する,一九八〇年のコミケを爆破しようともくろむ時空犯罪者の正体は,メイド服に身を固めたアニメ顔のアンドロイドだった.

「21世紀初頭から開発が加速した家庭用アンドロイド それをまっ先に買い求め普及につとめたのは アニメマニア フィギュアマニアといったヲタクの皆様だったのです! 実物大の動くフィギュアとしてですわ!!(中略)

そうしたニーズに応えるため・・・・ アンドロイドはSFにあるような 人間そっくりな姿ではなく アニメ顔に作られるのが習慣となりました

でも・・・・そのために 人類の不当な重労働に対し・・・・我らが起こした反乱は・・・・またたく間に鎮圧されてしまったのよ! 見れば区別がつくから・・・・・・

憎い! コミケが憎いっ!!」(『グランサー』第一巻181-182頁)


作者も欄外で「お気持ちはわかりますが,このネタに挑戦した心意気だけは評価してください」と言うとおりの,絶句するしかない末期的なギャグだが,しかしたとえば「美少女ゲーム」の行き着く果てには(アニメ顔かどうかはともかく),「実物大の動くフィギュア」,あるいは「動くラブドール」が待っていることはほぼ疑いない.それはおそらく,自我,自意識をもつレベルに達するはるか以前──せいぜいAIBOに毛が生えた程度の段階においてさえ,持ち主たる人間とその社会の側に,きわめて微妙だが重大な問題を引き起こす可能性がある.ましてそうした「動くフィギュア」たちが長谷川の意味での「ビメイダー」になってしまったら?


稲葉振一郎「マルチユニバースのビメイダー」,『オタクの遺伝子:長谷川裕一・SFまんがの世界』,太田出版,2005年,pp.305-306)


http://video.google.com/videoplay?docid=3710987618964917848