The Power of Thought


エコノミスト』誌の記事


なんとなく和訳してみました:

The Power of Thought

by Alison Goddard

《麻痺した身体の動作を回復する》


たしかに,両足が麻痺している患者に絆創膏を貼ってみたって何の治療にもなりはしないように思えるかもしれない.けれども,電極をいくつか取り付けてあげると,それをとりまとめる装置によって麻痺患者の思考を行動に翻訳する助けにはなる.2008年にこの実用版が公開され,最初に実地に試用する人が募集される.


 麻痺とは伝達の障害だ.脳は自転車の乗り方を忘れたわけではない.麻痺が起きた数年後でも,動作を考えているときに同じ神経細胞が発火する.問題は,このメッセージが身体の他の部位に伝わらないことだけだ.


 ロード島のブラウン大学のジョン・ダナヒューは,このリンクを回復させる方法の研究に取り組み続けてきた.彼は,じぶんの開発した技術がうまく機能するのを実証してみせた──とはいえ,絡み合う何本ものコードを頭から生やすのを我慢する覚悟のある人たちにかぎられるのだが.


 研究者たちは,サルの脳に小さなボタンくらいのシリコンチップを埋め込む.このチップにはより糸のように束ねた100本の金のコードがついていて,それぞれのコードは脳の神経細胞に1対1でつなげられる.神経細胞が発火すると,この電気活動がコードによって拾われて,シリコンチップに伝達される.


 次の段階では,この情報が頭蓋骨の内部から外界へと伝達される.そのために,シリコンチップに第二の装置が取り付けられる.これによってデータが赤外線のパルスで皮膚越しに伝達される.ちょうどリモコンみたいな要領だ.動力となる電気はどこから供給するかというと,電源につながった誘導コイルを頭の天辺にとりつけ,その頭皮のすぐ下にもう一つコイルをおいて,ここから供給する.体の外にあって人目につくのは,これと,ベルトに巻かれた計算ユニットだけとなる.最終的には,光繊維ケーブルで脳に繋がれた計算ユニットを腰に埋め込むのを研究チームは目指している.


 研究者たちは,この装置は動力付き車いすやロボットハンドを制御できるようになると考えている.彼らが望んでいるのはそれだけではなくて,対麻痺患者がみずからの身体をふたたび操作できるようにしたいとも思っている.そこで,彼らは Case Western Reserve大学の Hunter Peckham と連携している.彼は筋肉に電気刺激を与えてふたたび正常に動くようにするシステムの開発に取り組んでいる.これら2つのシステムを連結してやると,身体が正常な機能する方法を模倣できる.


 しかし,対麻痺患者が支障のない動作を出来るようにするには,ただ筋肉の動作を正常に戻すだけではたりない.それには,さらに,健常な身体をもつ人々の大半がじぶんに備わっていることに気づいてもいない能力を復元することが必要となるのだ:その能力とは,動作を微調整する感覚フィードバックを使用する能力だ.自販機から出てきた熱い紅茶いりの紙コップに手をのばす.手が紙コップに触れると,握りつぶして指をヤケドしないように掴む力の強弱が微調節され,適度な力でカップが持ち上げられる.


 これを実現するべく,2008年に,ダナヒュー氏と彼の共同研究者たちはシステムを逆順に動作させる開発を進める.実験で使われるサルは麻痺していないので,移植した機器は脳が行っていることを伝えるにとどまらず,情報を受け取った神経細胞に起きたこともいわば盗聴することになる.これと同じことは,人間でも可能だ.どういうことかと言うと,たとえばロボットハンドにセンサーを取り付けて,探知した圧力と温度の情報を収集させ,データを脳へと送らせるのだ.すると,人間の脳が刺激を受けて,ロボットハンドが感知したことが本人にも感じられる.麻痺した人間は,このロボットハンドを操作できる.絆創膏みたいな装置にしては,悪くない出来ではないだろうか.

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Irresponsible rumors 経由)