意味論

意味のレベル:「文の意味」・「言明の意味」・「発話の意味」

意味論・語用論の教科書(著者によれば学部3−4年から大学院レベルとのこと)から,意味のレベルに関する箇所を抜粋して訳しました: Meaning in Language: An Introduction to Semantics and Pragmatics (Oxford Textbooks in Linguistics)作者: Alan Cruse,…

「累積否定」

先日のエントリ「自分の読解力がわからなくなる:「脱童貞」でおk?」への追記で,"Nobody got nothing" は「何も得られない者などいないのだ」ではなくて「誰もなんにも手に入れなかった」(="Nobody got anything")と解釈した方がいいですよ,と書きま…

「must p は p よりも弱い」わけじゃないらしい

★ハンドアウト:Kai von Fintel & Anthony S. Gillies, "Must . . . Stay . . . Strong!" (PDF) ★スライド (PDF) ハンドアウトの結論部分: 「認識的な must は弱さの標識だ」というマントラは,「認識的 must は間接的推論を合図する証拠性標識だ」というも…

エルヴィス・プレスリーの反実仮想条件文 (Elvis counterfactual)

ちょっと昔の semantics etc. から: If Elvis were still alive, he would be dead by now. 〔もしエルヴィスがまだ生きてたら,もう死んでるだろう〕 Anthony Gillies による同様の例:発話の文脈:George が自分の大叔母の死因について両親に尋ねている.…

森有正の理由文

ときどき,下記の一節を思い出しては,じぶんがどれくらいの解釈をできるようになっているだろうかと考えることがあります: 今日は,「ある人は親切だから,あるいは親切な性質をもっているから,これこれの事をした」というのと,「ある人がこれこれの事を…

「主観性」・「主体性」関連の文献

[リスト更新:2008-05-08] いま手元にあって確認できる範囲で言語における「主観性」・「主体性」に関する文献を調べてみると,次のようなものがありました: 池上嘉彦, 2004. 「言語における〈主観性〉と〈主観性〉の言語的指標 (1)」『認知言語学論考』N…

ジョン・ライオンズ「直示と主体性=主観性:我発語スル,故ニ我アリ?」(7)

しばらくつづきましたが,ライオンズの訳読も今回でおしまいです. 原文:John Lyons, “Deixis and Subjectivity: Loquor, ergo sum?”, in R. J. Jarvella & W. Klein (eds.), Speech, Place, and Action, John Wiley & Sons, 1982. これまでの訳:(1),(2)…

「有標性」に関する3つの観点

昨日のエントリで言及したように,ライオンズは有標性について3つの観点を区別しています.これについては,Cruse (2004) が教科書的にわかりやすくまとめています: 有標性 (markedness) の概念はしばしば反対語の対に適用される:対立をなすものの一方が有…

英語の未来表現と「総称性」

英語の未来表現について少しメモしておきます.

はじめてでも「再突入」

スペースシャトルなどが 宇宙から地球にもどってくるとき,英語で re-enter(再突入する)といいます.名詞は re-entry(再突入).はじめてでも「再突入」です.おかしな感じがしますが,アラン・クルーズせんせいによると,意味論的にはこう考えられるとの…

認識様相の指標について

英語の法助動詞があらわす認識様相には,少なくとも (a)認識主体と (b)認識の時点という2つの変数が関わっているようです.

Anna Papafragou のモダリティ論文の解説

とある勉強会で用意した文章です.下記の文献の形式的な部分を解説してみました: Anna Papafragou, Epistemic modality and truth conditions, Lingua 116(2006), pp.1688-1702 [PDF] http://papafragou.psych.udel.edu/papers/Lingua-epmodality.pdf 形式…

(つづき)「ありがとうございます/ました」etc.

まだ引きずっております.ちょっと気がついたことを2つほどメモ.

Barbara Partee の回想:形式意味論の展開について

以前,Kai von Fintel の Semantics etc. で紹介されていたのを思い出して,改めて探しました: Barbara Partee,“Reflections of a Formal Semanticist as of Feb 2005″ [PDF] http://people.umass.edu/partee/docs/BHP_Essay_Feb05.pdf

記述的意味と非記述的意味

さっきのエントリーで考えたことは,おおざっぱに言えば記述的な意味と非記述的な意味の対立と考えていいでしょう. アラン・クルーズが書いた意味論の教科書を参考にしたのですが,そこでは記述的な意味を下記のように解説しています: 文の意味のうち,そ…

(つづき)「ありがとうございます/ました」etc.

前回のエントリーでは,「ありがとうございます/ました」の時制が感謝の対象となる事柄の時間を限定している点に注目しました. 今回は,それとはまた別の側面に目を向けてみます.

感謝の時制:「ありがとうございます」vs「ありがとうございました」

日本語母語話者にとっては自明になっていることですが,「ありがとうございます/ました」のテンスは文脈に応じてちゃんと使い分けがありますね.たとえば,次の3つの文脈でそれぞれの容認度を比べてみるとどうでしょうか: 【文脈1】誕生日プレゼントを受…