意味論

Yalcin & Knobe (2010 squib)「『ファット・トニーは死んだかもしれない』:認識的法助動詞に関する実験の覚え書き」

ある「立ち聞き」場面設定において認識様相の言明と様相なしの定言的断定が真だと判断するか偽だと判断するかを調査しました,という squib: Seth Yalcin and Joshua Knobe "Fat Tony Might Be Dead: An Experimental Note on Epistemic Modals" (PDF; Dece…

メモ:マクファーレン未公刊論文 (2008) 「認識的法助動詞は評価感応的である」

ずいぶん前にチェックしていたのを再チェック: John McFarlane, "Epistemic modals are assessment-sensitive" (http://johnmacfarlane.net/epistmod.pdf)

パーマーは認識様相も基本的に「主観的」および「遂行的」だと述べている

パーマーせんせいは義務(束縛)様相を原則的に指令型言語行為をともなうもの(したがって用語の本来のイミで遂行的)だと定義していました.これと並行して,認識様相も,彼は主観的かつ遂行的だと述べています.てっとりばやくわかる箇所を引用しておきま…

Palmer のいう義務様相は「指令的」だと定義されていた(が,後に微妙に変更された)

言語学におけるモダリティ研究ではずせない文献といえばフランク・パーマーせんせいの一連の著述なのですが,彼のいう deontic modality(義務様相,束縛様相)の扱いには注意が必要です.たとえば,must が表す「〜せねばならない」は,義務様相の必然性と…

must には「必ずこうなる」という不可避性の意味・用法がある(そして認識用法とは異なる)

ともすれば法助動詞の must には「〜しないといけない」(義務・必要)と「〜にちがいない」(認識的必然性)の2つくらいしか意味がないと言われがちですが,これらからはっきり区別されるべき「不可避性」(inevitability) の意味もあります.たとえば,こん…

抜粋:Wierzbicka (1991):認識的 must vs. will の相違

「ヴェジビツカ」だったり「ヴィエルジュビツカ」だったりする Wierzbicka せんせいの20年前の本から認識様相と発語内効力に関する箇所を抜き書き: ■文献: Anna Wierzbicka, Cross-cultural pragmatics: the semantics of human interaction. Berlin/New Y…

Larkin (1976) より関係節の will について

ほんらい意図していたこのブログの使い方をさっき電車の中で思い出したので. Larkin, Don (1976). "Some notes on English modals," in J. D. McCawley (ed.) Syntax and Semantics, vol. 7: Note from the Linguistic Underground, Academic Press, New Yo…

Cann, Kempson, and Gregolomichelaki (2009) より「出来事タイプ」

割と新しい意味論テキストから,状況アスペクトの箇所をノート程度に抜粋.要点は,ヴェンドラーの古典的な分類を出来事の局面構造でもっと単純にしてやるところです――が,前提知識なしにこれだけ読んでもしょうがないので,マニアだけお読みいただけばいい…

Lyons (1977) のモダリティ論を抜粋・翻訳・註釈するスレ (5):番外(ヘア『道徳の言語』)

もはやじぶんでも読まないかもしれないエントリですが.

Lyons (1977) のモダリティ論を抜粋・翻訳・註釈するスレ (4)

前回の続きを1パラグラフだけ. すでに見ておいたように,主観的認識様相は発話の I-say-so 要素を話し手が限定しているのだと分析できる.客観的様相をもつ発話は(それが真理様相であれ認識様相であれ)限定抜きの I-say-so 要素をもっているのだと記述で…

Portner (2009) より難破船の例の議論

Modality (Oxford Surveys in Semantics and Pragmatics)作者: Paul Portner出版社/メーカー: Oxford University Press, USA発売日: 2009/03/25メディア: ペーパーバック購入: 3人 クリック: 42回この商品を含むブログ (5件) を見る 昨日のエントリで抜粋し…

Lyons (1977) のモダリティ論を抜粋・翻訳・註釈するスレ (3)

蝸牛の歩みでジョン・「サー」・ライオンズのモダリティ論を読み進めるシリーズです.前回はこちら. Semantics 2作者: John Lyons出版社/メーカー: Cambridge University Press発売日: 1977/10/27メディア: ペーパーバック クリック: 13回この商品を含むブ…

抜粋:ハッキング (1967) より認識的可能性の箇所(付け足しアリ)

イアン・ハッキングの論文から,認識的可能性の箇所だけ抜粋して訳しました*1. *1:追記:この難破船の例による議論は von Fintel and Gillies (2004) および Paul Portner (2009) Modality p.166 に紹介されています.

Lyons (1977) のモダリティ論を抜粋・翻訳・註釈するスレ (2)

前回の抜粋につづくパラグラフをみておきます.「客観的な認識様相」の解釈が適切に用いられうる場面をあげている箇所です.

Lyons (1977) のモダリティ論を抜粋・翻訳・註釈するスレ (1)

言語学系の様相=モダリティ研究(とくに形式意味論以外のそれ)で一種の古典になっている Lyons (1977) 第17章から一部だけ抜粋してメモしていきます.ライオンズの議論にはおかしい部分があるとぼく自身は考えていますが,それ以前に誤解・歪曲をされやすい…

クリップ:ジェフリー・ナンバーグ「意味の転移」(Transfers of meaning)

レイコフらの認知意味論で脚光を浴びて久しい(20年以上ですか)隠喩・換喩ですが,ほぼ同じ現象について彼らとは異なる分析を提示している研究者にジェフリー・ナンバーグがいます.彼が「述語転移」(predicate transfer) の仮説についてある程度まとめて論…

if節で「静態述語」が未来指示になるケース

いま訳読している論文で,フィルモアは if節の動詞の時間指示はもっぱら静態述語 vs. 動態述語のちがいで決まると述べています.つまり, 静態述語+現在時制形式 (If she lives here I’ll get a chance to meet her. ) : 現在指示,中立的な認識的構え H …

事例のメモ:いまも成り立っている状態について過去時制を使うケース

状態述語+過去時制でありながら,「もはやそうではない」という no longer 推意がないケースは,探すとそれなりにみつかります.こういう場合,現在でもその状態は成り立っているのに過去時制を選択することにはなんらかの動機があるわけですが,ひとつには…

抜粋:「ドット事物」

Pustejovsky の他の重要な新提案は,事物のあるクラスは分類上の複数の位置を同時に占めるという観察によっている.そのようなクラスの1つは,小説 (novel) や新聞 (newspaper) のような,情報を担う事物である.物理的事物としては,小説には大きさや重さが…

twitterログ:「長い本」とファセットのはなし

追記:「ファセット」についてはこちらのエントリを参照してください:意味論・語用論の用語:「ファセット」 twitterで思いつきを書いたら他の人が話をふくらませてくれたでござる,の巻. shokou5さんとbe_koさんの許可をもらって転載します.

honorifics and quantification:容認度どうでしょう

twitterで koljaさんに教えてもらったネタを忘れないうちにメモ. 以下に挙げる例文の容認度が気になってます.「思う」の主語は「教授」だという解釈のもとで容認されるかどうか: (1) どの教授も そのクラスを教えたと 思っている. (2) どの教授も そのク…

必然性と予期:猫は必然的に動物か?

困ったときのクルーズてんてー頼み,というわけで,リハビリ的に Meaning in Language から自分の気に入ってるところをチョイスして紹介します. Meaning in Language: An Introduction to Semantics and Pragmatics (Oxford Textbooks in Linguistics)作者:…

主観,客観,キャットフード:評価文脈/評価主体への相対化

このところ自分が関心をもって考えている話題について,少しまとめのメモを書いてみようと思います.(と言いつつ,あまりまとまりませんが) 主観読みと客観読み 昨日やっと訳読を終えたジャッケンドフの議論では,心理述語・評価述語がもつ主観読みと客観…

ヘンだけど意味のある条件文

下記の反実仮想条件文はマンガからの引用で,小人さんの取り替え子にされた女の子の発話です: パパも人間なんかじゃなくて ゴブリンとかブラウニーとかのとこの赤ん坊と替え子にしてれば わたし こんなに大きくならなかったのに(竹本泉『よみきりものの… …

英語では“感情が見える”らしい

まずは下の例文を読んでください: (1) 私は彼が{悲しい/嬉しい/楽しい}のを見たことがない. (2) ぼくが悲しいのを見て,田中さんがはげましてくれた. (3) ぼくが嬉しいのを見て,山田さんが「なにかいいことがあったの?」と訊いてきた. (1)-(3) いず…

クワイン「累積的指示」

昨日のエントリの補足です. 質量名詞の water などは,等質で境界をもたないものとして概念化されていて,たとえばある分量の水を足し合わせたものもやっぱり水であると私たちは当然のこととして推論します.(当たり前すぎて「推論」と呼ぶのが不自然な感…

部分期間特性 & 加法特性 / 抜き出し可能性 & 伸張可能性

形式意味論で言われる「部分期間特性」・「加法特性」はラネカーの言う「抜き出し可能性」・「伸張可能性」に対応していて,研究史の上ではこれに先行しています(ラネカーはそうした文献を参照していないようですが). 1 部分期間特性 先日のkillhiguchiさ…

「部分的期間の定理」

部分的期間の定理 発話時現在を含むことによってアルを適切とする状態があるとき,その状態の継続期間のうち,発話時現在以前の部分を取り出すことによって,必ずアッタも適切となる. (金水敏「テンスと情報」,音声文法研究会 (ed.) 『音声と文法3』くろ…

事例:"he was a different race five times"

不可算名詞が通常は個数を数えられない (#three wines / three glasses of wine) のと同じように,ふつう,状態述語は回数を繰り返せません: A specific indication of replication is the adverbial phrase again and again. As expected, it only occurs …

「視野・探索」と「隠れたシナリオ」:頻度副詞が名詞句を量化しているようにみえるケース

定延利之『煩悩の文法』(pp.62-66) では,次のような例をあげて,頻度(「時間的な分布」)が「空間的な分布」を表しているかのようにみえることがあると述べています: 定延なんて名字の人,めったにいないですよね. どんな反社会的な考えでも,行動に表わ…